
2021年、Facebookのマッチング機能「Facebookデート」で、1週間の間に国際線パイロットと大金を稼ぐ通貨トレーダーに立て続けにマッチングされた時、私は「話がうますぎる」と気づくべきだった。
それまでの7年間、パートナーとの出会い、出産、そして破局を経て、私はシングルマザーとしての生活にどっぷり浸かっていた。恋愛とは長らく遠ざかっていて、少しウブになっていた。
でもやっと、恋愛を再開する気になった。
以前オンラインデートをしていた2012年から2013年は、マッチングアプリはまだ普及していない時代で、何人かのそれなりの男性に出会い、数人とは恋愛に発展。友情を築いた相手もいた。
当時は、オンラインでのチャットは実際に会う前のただのファーストステップに過ぎなかった。でも今は、中身のないチャットこそがもはや目的のようになっていて、あまり楽しくない。
私は、母親業のたまの休日に、実際のデートに出かけたかった。アプリでのデートはあまり成功していなかったが、明らかに素性を偽っているような人物にはこれまで出くわしたことはなかった。
ある「トレーダー」との出会い
私の住むスペインの街の近くを拠点にしているはずのトルコ人パイロットは、決して直接会おうとはしなかったため、そのやり取りはすぐにフェードアウトした。
一方、トレーダーの男性はよりおしゃべりで、会話はすぐにFacebookからWhatsApp(メッセージアプリ)へと移っていった。終わらないチャットのやりとりの、ごく普通のネクストステップだと私は感じていた。
彼が「婚約者とお腹の子どもを交通事故で亡くした」と打ち明けてきたときも、私は少し気まずくは感じたが、それが嘘だとは疑わなかった。メッセージのやり取りを始めて最初の数日で打ち明けるには重すぎる内容だとは思ったし、返事にも困った。
彼が数万ドル(数百万円)の取引のスクリーンショットを送ってきて、私に「ライターとしての仕事は儲かってる?」と聞いてきた時でさえ、私は何も気づかなかった。
私は疑うどころか興味を惹かれ、以前トルコのイスタンブールに住んでいた時期に、FX(外国為替)を少しやっていたことを話した。そして、実際にFXを学ぶことに興味を持ち始めた。
彼は私に教えると約束し、実際の取引経験を通じて学ぶのがー番だと語った。そして、実践を通して学べるようにと、登録して口座を開設するための取引プラットフォームのリンクまで送ってきた。
ロマンス詐欺の手口とは
今でこそ、2022年に7万人のアメリカ人がこの手の詐欺に騙され、総額13億ドル(約2027億円)を巻き上げられたことを知っているが、当時の私はこれが典型的なロマンス詐欺であるという事実に全く気づいていなかった。
こうした詐欺は通常、被害者に何らかのリンク(絶対にクリックしてはならない)を送りつける手口が使われる。それが取引やお金を稼ぐことに関連するものであれば、彼らはあなたの信用を得るために、最初は少額の資金を入金させるだろう。
自分の「投資」や「取引」が成功しているように見え、利益の一部を引き出すことさえできるかもしれない。その瞬間、詐欺師は「カモを釣り上げた」と確信する。あとは、あなたを言葉巧みに誘導してどんどん高額な入金を続けさせ、最終的に偽の口座にある資金とともに突然姿をくらます。
私は修士号を持ち、教員や教育用教材のライターという経歴があるにもかかわらず、ひどく世間知らずだった。
信じられないかもしれないが、人々がこうした詐欺師の嘘に引き込まれるのも理解できる。というのも、私自身もしばらくの間は全く疑いを持っていなかったからだ。
おそらく、私が人生の変化を求めていた時期に彼が現れたからかもしれない。ライター業があまり儲からないという彼の指摘は正しかったし、当時の私は、創造性をほとんど必要としない教育系出版社のためのコンテンツ執筆に、心をすり減らしていたのだ。

彼が取引を勧めてきたとき、私にとって魅力的だったのは、「自分も1日に3万2000ドル(約500万円)を稼げるかもしれない」ということよりも、1日中PCの前に縛り付けられている間に、もっと刺激的な何かができるのではないかという期待感だった。
ピンチをチャンスに
私の学歴や経験は詐欺を見抜く役には立たなかったものの、結果的に私をそこから救い出す一因となった。
私は数多くのオンラインコースに携わってきた教育者・ライターとして、「専門家だからといって優れた教師とは限らない」と熟知していた。職業柄、私は質の悪い指導に対してとても厳しく、自分が学ぶものは何であれ、教育学的にしっかりした根拠を持つものであるべきだと考えている。だから、彼が1日に数万ドル(数百万円)稼いでいるとまだ信じていたものの、彼から教えを受ける気など全くなかった。
投資に対する純粋な好奇心も相まって、私はすぐにオンライン投資講座を検索し、良さそうな候補を絞り込み、「あなたに感化されて、自分で取引の勉強を始めることにした」と彼に伝えた。
もちろん、これは私を騙そうとしていた詐欺師にとって、歓迎すべき知らせではなかった。彼は「理論だけでは限界がある、実践あるのみだ」と必死に私を説得しようとした。
しかし、教育系ライターの私からすれば、それはナンセンスだった。よく練られたコースは、基礎的な概念をしっかりと網羅したうえで、初めて実践的な要素を取り入れる。スキューバダイビングの資格取得でさえ、まずは座学から始まるのだ。
詐欺に遭った経験がキャリアに
私がオンラインコースに熱心に取り組むにつれ、男はさらに強引で執拗になった。ついに私は「まともな人間であれば、ここで引き下がるはず」と気づいた。そもそも、会ったこともない他人に、自分の時間を割いてまで教えたがる人間などいるわけがない。
彼が詐欺師であることを指摘すると、彼は態度を急変させ、私を「一生成功しない三流ライター」「冷酷で傲慢」と罵り、「お前が成長して変わるのを助けようとしてやったのだから、俺に感謝すべきだ」と言い放った。最終的に、私は返信するのをやめ、チャットをアーカイブした。

実のところ、多くの意味で私は彼に感謝している。オンラインコースが途中で難しくなっても投資について学び続け、インデックスファンドを通じたパッシブ投資を知った。年金口座を開設したり、貯蓄を投資に回したりするなど、私は人生で初めて金融面での具体的なステップを踏み出し始めたのだ。
そこからは、教育と執筆という私の経歴が再び役立った。私は、同業の教師やライターに向けて投資を教える独自のコースを立ち上げた。かつての私と同様に、彼らも資産管理や投資についての知識が乏しく、同じように詐欺に引っかかるリスクがあるからだ。
自分のビジネスが十分に軌道に乗ったら、いつかまた投資講座を受講するかもしれない。あの男は詐欺師だったが、投資自体は真っ当な職業だからだ。それには数カ月に及ぶ努力と自律が求められるが、私には合っていると思う。
オンラインデートに関しては、その後半年ほど手を出した後、2年以上休止した。スワイプやチャットに浪費していた時間を、自分のビジネスを構築するために充てた。
現在は、とりあえず1つのアプリを再開しているが、パイロット、トレーダー、被災地の医療従事者、消防士、あるいは石油掘削施設の作業員といった華やかで英雄的な職業を名乗る、できすぎたプロフィールの人物からのメッセージは無視している。
実際、合わない人を排除する恋愛メソッドを実践していて、怪しい兆候があれば容赦なくブロックしている。これまでのところ、詐欺のような会話には遭遇していない。このメソッドでは、最初の数回のメッセージで個人的な悲劇を打ち明けたり、強引だったり自己防衛的だったりする言葉遣いをしたりするような行動は即座にブロックの対象になるという。
電話番号を聞き出すためにアプリ外へチャットを移行させるのは詐欺師の典型的な手口であるため、私は決してそれに応じず、いつ会いたいかを質問する「事前審査」も用意している。これにより、詐欺師が好む「無駄なメッセージのやり取り」が減った。
2021年、退屈しながらマッチングアプリをスワイプしていた私は、人生の変化を求めていた。それが恋愛ではなく仕事を通じて訪れるとは予想していなかったが、あの詐欺師がいなければ、この変化が起こることは決してなかった。
2024年にハフポストUS版で公開され反響が大きかった記事を翻訳・編集しました。