
- AIや地政学、経済をめぐる「破滅論」が世の中に蔓延するなか、人々の投資行動にも影響が出ている。
- ファイナンシャルアドバイザーは、顧客に「世界の終わり」を前提にした投資をしてほしくないと考えている。
- 彼らは、顧客の不安をどのように解消し、そのポートフォリオを守っているのかを説明してくれた。
私たちはいま、終末思想の黄金時代の真っ只中にいる。
AIの脅威が主役に躍り出ているが、その気になって探せば、不吉な前兆は至るところにある。弾道ミサイルを撃ち合う国々、膨れ上がる国家債務、高騰するエネルギー価格、そしてもちろん、おなじみの気候危機だ。
だからこそ、個人の資産運用を支援するファルコン・ウェルス・プランニング(Falcon Wealth Planning)の創業者、ガブリエル・シャヒン(Gabriel Shahin)氏が、新型コロナウイルスによるロックダウン以降、顧客の間でじわじわと高まって終末思想(破滅を信じる悲観主義)が今年、かつてない水準に達したことを目の当たりにしているのも無理はない。
シャヒン氏の会社はいま、顧客が論理ではなく恐怖に基づいて金融上の判断を下すことのないよう、彼らを守ることにこれまで以上の時間を費やしている。
「私たちの仕事は、実に奇妙な仕事だ」とシャヒン氏は言い、公認ファイナンシャル・プランナー(CFP)の資格を持っているだけでは足りないこともある、と明かした。
「ファルコンで働くには、PhD(博士号)やPsyD(臨床心理学の博士号)を持つ人材が必要だ。それが私たちのやっている仕事なのだから」。
顧客を終末的な未来像から遠ざけつつ、非常に合理的な不安からは守る。それを両立させることは、ファイナンシャル・プランナーにとって綱渡りのようなものだ。
トゥルー・ノース・アドバイザーズ(True North Advisors)で最高投資責任者(CIO)を務めるドゥルブ・マニクタラ(Dhruv Maniktala)氏は、Business Insiderの取材に対し、「破滅」への備えと、資金を市場に置き続けることで得られる上昇の恩恵を手放すことの間で、折り合いをつけるのが重要だと語った。
「終末思想というものは確かに存在すると思う。だが、もし5年間も間違った判断をし続けたら、その後に正しい判断をしたとしても、すでに大きく差をつけられているため挽回するのは不可能だ」とマニクタラ氏は語る。
「破滅の心理」を理解する
未来の「喜び」よりも「大惨事」を想像するほうが、はるかに簡単だ。そう語るのは、オリオン・アドバイザー・ソリューションズ(Orion Advisor Solutions)で最高行動責任者(Chief Behavioral Officer)、ダニエル・クロスビー(Daniel Crosby)博士だ。心理学者はこれを「ネガティビティ・バイアス」と呼ぶ。
「生き残れるかどうかが、脅威に気づけるかどうかにかかっていた時代、この本能は私たちの祖先の役に立っていた」と彼は言う。「しかし、金融メディアがまさにこの本能を毎日競い合うようにあおっている現代では、投資家にとってマイナスに働く」。
そのため、差し迫る破滅を心配する顧客が相談に訪れると、エンジェルス・ウェルス・マネジメント(Angeles Wealth Management)のシニア・マネージング・ディレクタ、リック・ノット(Rick Nott)氏は、「何よりもまず、そこで伝えられている一つの感情」、つまり恐怖を理解しようと努める。ファイナンシャル・プランナーの役割は、お金にまつわる人々の感情を理解し、それに応えることだと彼は言う。
「私の仕事は、その人の目標と、その目標を狂わせかねない不安や問題を、実際に金融面の行動に移せる形に落とし込むことだと捉えている」とノット氏は語る。
数で勝負する戦略をとり、月に3000件もの見込み客を集めるシャヒン氏の会社は、マーケティング資料の中でも顧客の不安に向き合っている。
シャヒン氏の会社は大きな選挙がある年には毎回、二大政党(共和党と民主党)双方にまつわる政治的な「終末論」への不安に応える自社サイトのランディングページを作成する。そして、最終的なメッセージはいつも同じだ。つまり「政治的な意見と投資は別物であり、投資が実を結ぶのを見届ける最善の方法は、投資を続けることだ」というものだ。
不安に対して理性的かつ冷静に向き合えば、大抵の場合は良い結果をもたらす。それがシャヒン氏の経験則だ。
時には、金融の知識が乏しい顧客に、どれだけ債務が膨らもうとアメリカ財務省が破綻する可能性は極めて低いと教えることも必要になる。
「まるで、人々は落ち着かせてもらいたがっているかのようだ」とシャヒン氏は語る。「彼らは胸の内にあることを、ただ誰かに話す必要があって、その人たちを落ち着かせるのが、私たちの仕事なんだ」。
不安に合わせてポートフォリオを組む
ポートフォリオは1人ひとりの個人的な不安に合わせてカスタマイズすることが可能だ。
「だから、すべての人のポートフォリオが違って見えるのだ」とノット氏は語る。「怖いと感じるものが、人によってまるで違うから」。
ノット氏は、アメリカの政府債務とドル安を恐れる人々に対しては、非相関資産(値動きが株式などと連動しにくい資産)への移行を支援しているという。
AIを恐れるだけでなく、AI企業に憎しみまで抱く顧客には、シャヒン氏は感情面のヘッジとして、あえてそうした企業に投資することを勧めている。
「もしその企業が失敗すればお金は失うが、最も強大な企業の一つが倒産するのだから、少なくとも気分はいいはずだ」とシャヒン氏は語る。「そして、もし彼らが利益を上げれば、それはそれで素晴らしい。大金を手にしたことになるわけだから」。
最終的に、顧客が何を望むかという点において、ノット氏は「スイス(中立)」の立場をとり、顧客に依頼された通りの仕事をこなすのだという。
「もちろん、できる限りの説明や情報提供はする。だが、結局のところ、それは顧客自身の金融資本だからだ」とノット氏は語る。
シャヒン氏によれば、顧客がとんでもなくリスクの高い動きに出ようとした場合、同社は強硬姿勢で臨むこともある。「5300ドル(約85万円)で金(ゴールド)を買うつもりはない。それが気に入らなければ、私たちをクビにしてくれ」といった具合だ。だが通常は、最も頑固な顧客であっても、可能な限り少額で満足してもらえる方法を探るという。
「私たちはいつも、『顧客と腕相撲をするのはやめて、柔術(相手の力に逆らわず、受け流す武術)を使おう』と言っている」とシャヒン氏は語る。「少しだけ譲歩して、顧客に『勝った』と感じてもらうのだ。100万ドル(1億5750万円)のポートフォリオなら、1万ドル(157万5000円)、つまり1%分は顧客の望むとおりにしてあげよう、と」。
オールウェザー(全天候型)の楽観主義
一方、トゥルー・ノースのマニクタラ氏のように、「全天候型」の手法をとるアドバイザーもいる。「最も起こりやすい結果ではなく、起こり得るほとんどの結果に備えて投資する」という考え方だ。つまり、市場が上がり続けるという期待だけを拠りどころにしてポートフォリオを組むのではなく、そうならなかった場合にも十分な守りが効くように組むということである。
トゥルー・ノースの姉妹会社ウエスタン・オルタナティブズ(Western Alternatives)でCIOを務めるマニクタラ氏は、ヘッジ手法やオルタナティブ資産(株式や債券以外の資産)を活用し、同社の顧客に全天候型のリターンをもたらすファンドを設計した。ほかのアドバイザーからの需要を受け、現在は外部のアドバイザーの顧客にも門戸を開放。全天候型ファンドの運用額は18億ドル(2835億円)に上っている。
破滅を予言する人々は最も注目を集めるが、長い目で見れば、投資の「静かな楽観主義」が最後に勝利を収める、とクロスビー博士は言う。
現代の市場の歴史のなかで、アメリカの株式市場が20年間でマイナスのリターンを出した期間は一度もない、と彼は指摘する。投資をすることは、「未来は現在よりも生産的になる」という「楽観的な行為」を実践することなのだ。
「世界は、2世紀前の終末論者たちが想像もできなかったほど、安全で、健康で、長寿になり、そして豊かになった」とクロスビー博士は語る。「優れた投資とは、突き詰めて言えば、この先の2世紀もその流れが続くことに賭けることなのだ」。

