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暗闇でも飛べる小型ドローン、その秘密は“ヒゲ”にあり

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災害救助や設備の点検、環境調査などの現場では、超小型ドローンの活躍が期待されている。だが、重さ100g未満という小ささゆえに、搭載できるセンサーや計算能力、電力には厳しい制約がある。さらに、煙が充満した建物や暗い洞窟、透明な障害物や光を反射する障害物のある場所では、カメラやLiDARといった一般的なセンサーが機能しなくなってしまう。

そこでオランダのデルフト工科大学(TU Delft)の研究チームは、ネズミなどのげっ歯類やモグラの感覚毛(ヒゲ)に着想を得て、ドローンに取り付けられる軽量かつ低遅延の触覚センサーを開発した。ヒゲが軽く触れるだけで周囲を探索できることから、視覚に頼らない移動が可能になるという。

「わたしたちはドローンに豊かな触覚を与えることを目指しています。空中で物体を操作するためではなく、物体に触れることで未知の環境を探索しながら飛べる触覚ナビゲーションという新しい概念のためです」と、TU Delft准教授のサルア・ハマザは説明する。「ドローンで触覚センシングを機能させるためには、軽量かつ低遅延で、さらに消費電力も少なくしなければいけません。その答えを自然界の“ヒゲ”に見出したのです」

Video: Delft University of Technology & Studio Oostrum

触れて探る“ヒゲ”の仕組み

ハマザらの研究チームは、手のひらサイズの小型ドローンの前方に2本の触覚センサーを取り付けた。このヒゲは直径0.4mm、長さ200mmのニチノールワイヤー(ニッケルチタン合金線)でできている。根元には3つの小型気圧センサーがあり、ヒゲがたわんだときの圧力変化から接触の深さと位置を推定するという仕組みだ。自律飛行中の検知や判断、制御に必要な計算は、すべてドローンに搭載したマイコンで処理しており、外部のコンピューターには頼っていない。

研究者たちによると、ヒゲを取り付ける角度が特に重要だという。壁に沿って動かした際に、ヒゲが生む力によって機体が回転し、不安定になるおそれがあるからだ。6通りの角度を3種類の速度で試して計72回の飛行を比較した結果、墜落しなかったのは30度、45度、そして60度でヒゲを取り付けた場合だった。そのうち機体の向きのぶれが最も小さかった45度を採用している。また、60度では前方の感知範囲が短くなる点も考慮している。

大きな課題となったのは、本物の接触信号とドローン自身が引き起こす外乱とを切り分けることだったという。ドローンのプロペラが生み出す気流は、ノイズやドリフト(センサー値が時間とともに徐々にずれていく現象)、その他の歪みを生じさせることがあるからだ。

この問題に対処するために、何にも触れていないときのセンサーの値に基づいて時間とともに生じるずれの傾向を飛行中に推定し続け、振動によるノイズをフィルターで除去できる補正アルゴリズムを、研究チームは開発した。これにより、何も触れていないのに接触と誤判定する割合は、フィルターだけで処理した場合の38.24%から0%にまで低下したという。

このほか、補正した信号から壁までの距離を推定する工程では、ドローン自身の動きから計算した予測を、カルマンフィルター(複数の不確かな情報を組み合わせて推定値を安定させる計算手法)を使ってニューラルネットワークの予測に組み込んでいる。

その結果、ホワイトボードを使った壁では片側のヒゲの平均絶対誤差を6.40mmから4.23mmに、透明なガラスの壁でも11.33mmから5.91mmに改善することに成功している。レーザー距離センサーではガラスの壁との距離の測定結果が不安定になるが、触覚センサーなら安定して距離を推定できることも確認された。

“見えない壁”も感知できる

研究チームは今回、透明な壁を3枚並べた環境でドローンの飛行試験を実施した。触覚センサーが壁面に触れると、ドローンは壁との距離を60〜100mmに保ちながら壁沿いに飛行を続ける。実験の結果、5回の試行のすべてで目標地点に到達できたという。また、壁を斜めに配置した場合も、すべての試行で成功している。一方、比較用に搭載したレーザーセンサーは、ドローンが壁に正対していないと距離の測定に失敗したという。

しかし、壁沿いに進むだけでは部屋の隅に入り込んだり、横にある障害物を見逃したりしやすい。そこで研究者たちは、確率的に壁の形を推定する手法(ガウス過程陰関数曲面)を使って、まだ調べていない場所を優先して進む探索方法を考案した。この手法により、シミュレーションでは10回中9回、実機でも2m四方のガラス壁の部屋で幅80cmの出口を見つけることに成功している。

なお、ドローンに搭載されたマイコンのメモリの容量は192KBだが、今回の実験で触覚センサーのアルゴリズムが使用しているのは、そのうちの34KBにすぎない。「触覚を使うために、ドローンのサイズや計算能力を犠牲にする必要がないことを示したかったのです」と、TU Delftの博士課程に在籍するチャオシャン・イエは語る。「たとえ小さなドローンでも、周囲の環境をリアルタイムで感知して反応できます」

一方で、いくつかの課題も残されている。長時間にわたって壁をなぞり続けると、信号のずれが蓄積して距離の推定精度が下がってしまう。また、気圧センサーの個体差や機械的なわずかなばらつきがあることから、学習済みのモデルを別のセンサー個体にそのまま転用するのは難しい。現状では、最良の性能を得るには外部の計測システムを使い、個体ごとに5〜6回ほど壁をなぞる再校正が必要で、約15〜20分を要するという。

研究チームは、災害救助や危険な環境での探索、従来のセンサーが使えない閉所での自律飛行、複雑な構造物の点検などへの応用を見込んでいる。軽量なハードウェアと高度なオンボード処理を組み合わせることで、最小クラスの自律飛行ロボットでも触覚が頑健なセンシング手段になりうることを、今回の研究成果は示している。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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