ひまネタNEWS(^o^) | スキマ時間にちょっとしたネタを提供スキマ時間に、話題のまとめを一気読み 全サイト自動巡回中
HIMA NETA ORIGINAL READER
本文だけモード WIRED.jp IT・ガジェット 約9分で読めます

幽霊粒子「ニュートリノ」を捕まえる、科学者たちの巨大な実験装置

読みやすさ この端末に設定を保存します
書体
文字
背景

広告・ランキング・関連記事を除き、配信元の安全な文字装飾だけを残しています。

article image

『WIRED』日本版の「量子コンピューター」特集はこちらから

70年前、物理学者のクライド・コーワンとフレデリック・ライネスは、特注の10トンの検出器を製作し、それを分厚い鉛の壁と濡れた土嚢で囲んだ。そして、サウスカロライナ州のサバナ・リバー・プラントにある強力な原子炉の近くに設置した。「ポルターガイスト計画(Project Poltergeist)」と名付けられたこの実験は、まるで幽霊を捕まえようとするものだった。

さらに四半世紀以上前、物理学者たちは、「ベータ崩壊」と呼ばれる放射性壊変の過程で、なぜエネルギーが失われているように見えるのか、頭を悩ませていた。何かが足りないことは明らかだったが、それを説明できる既知の物理法則はなかった。そして1930年、オーストリアの物理学者ヴォルフガング・パウリが、大胆な解決策を提案した。ほとんど検出できない粒子が、失われたエネルギーをひそかに運び去っているというのだ。

パウリは友人に「とんでもないことをしてしまった」と語った。「わたしは検出できない粒子を仮定してしまった」

この粒子は後に「ニュートリノ」と呼ばれるようになった。ほとんど質量を持たず、電荷もないニュートリノは、地球やそこに存在するあらゆるもの、もちろんわたしたちの体も、ほとんど何の妨げもなく通り抜けることができる。

物理学のゴーストハンター

1956年初頭にコーワンとライネスが設置した巨大な装置は、パウリが不可能だと考えていたものを見つけるためのものだった。そしてその年の6月、ロスアラモス国立研究所に所属するふたりの物理学者は、パウリに一通の電報を送った。「喜んでお知らせします。ニュートリノを確実に検出しました」

スーパーカミオカンデ検出器を通過するニュートリノは、その種類によって検出器の壁面に特徴的なパターンを残す。ここでは、素粒子物理学の標準模型を構成する基本粒子のひとつであるミューニュートリノと電子ニュートリノの痕跡が見られる。

スーパーカミオカンデ検出器を通過するニュートリノは、その種類によって検出器の壁面に特徴的なパターンを残す。ここでは、素粒子物理学の標準模型を構成する基本粒子のひとつであるミューニュートリノと電子ニュートリノの痕跡が見られる。

Super-Kamiokande Collaboration/Science Photo Library
幽霊粒子「ニュートリノ」を捕まえる、科学者たちの巨大な実験装置
Super-Kamiokande Collaboration/Science Photo Library

その後、関心はより大きな問いへと移った。核反応によってニュートリノが生み出されるのであれば、ニュートリノを使って、太陽をはじめとする恒星の内部で起きている核反応を観測できるのではないか?

これはさらに大きな課題を意味した。ほとんどあらゆる物質をすり抜けてしまうニュートリノを、遠くの恒星から飛んでくるものまで含めて、どうやって捉えればいいのだろうか。物質とほとんど衝突しない粒子を検出するには、衝突する相手となる膨大な量の物質が必要になる。さらに、その物質は、ほかの放射線によるノイズから遮蔽されなければならない。

そこで科学者たちが出した答えは、科学史上でも最大級かつ最深部に位置する、極めて特殊な「罠」のような実験装置をいくつも仕掛け、あとはニュートリノが捉えられるのを待つことだった。

...

SNO+は、クレイトン鉱山に設置されていたサドベリー・ニュートリノ観測所(SNO)の後継実験で、前身の実験で使われていた機器の一部を再利用している。ただし、内部に満たされているのは重水ではなく、食器用洗剤の製造などに商業利用されている直鎖アルキルベンゼン(LAB)だ。LABは、重水の50倍の明るさの信号を生み出す。上から吊り下がっているのは、この実験のディレクターを務めるアート・マクドナルドだ。

Photograph: Volker Steger/Science Photo Library
...

イタリア・アブルッツォ州のグラン・サッソ国立研究所に設置されたボレキシーノ・ニュートリノ検出器は、太陽が複数の経路で水素をヘリウムに融合させていることを示す初の直接的な証拠を捉えた。ニュートリノの相互作用によって生じた光を増幅する光電子増倍管を、研究者が点検している。

Photograph: Volker Steger/Science Photo Library

1960年代、米国ブルックヘブン国立研究所のレイモンド・デイビス・ジュニアらは、サウスダコタ州のホームステイク鉱山の地下1.5kmにタンクを設置し、「パークロロエチレン」と呼ばれる塩素系洗浄液を約40万ℓ満たした。通過するニュートリノがごくまれに塩素の原子核と衝突すると、検出・計測可能な放射性アルゴンへと変化する。25年間にわたって行なわれたこの実験で検出された太陽からのニュートリノの数は、理論モデルで予測されていた数のわずか3分の1だった。これは「太陽ニュートリノ問題」として知られるようになる。

謎を解く、さらに巨大な実験

「太陽ニュートリノ問題」が解決されるまでには何十年もかかった。そして、その謎を解き明かしたのは、さらに巨大な実験だった。

日本の岐阜県にある神岡鉱山の地下深くで、物理学者の小柴昌俊は「カミオカンデ」と呼ばれる新しい種類の検出器を建設した。この実験装置は300万ℓの超純水で満たされており、そこでニュートリノが水中の原子核とまれに相互作用する。その際に生じた電子は非常に高速で移動し、「チェレンコフ光」と呼ばれる光を放つ。検出器はこの光を捉えることができる。

...

建設中の水中ニュートリノ検出器「KM3NeT」に使用するデジタル光学モジュールを設置する作業員。シチリア島沖の地中海の海底約3,500mに、約20万個の光学センサーが固定されるほか、フランス・トゥーロン近郊にも小規模な検出器アレイが設置される。センサーは、ニュートリノが周囲の水や岩石と相互作用することで生じる二次粒子が発するチェレンコフ光を検出する。

Photograph: Courtesy of KM3NeT

カミオカンデと小柴は、デイビスが検出した太陽ニュートリノの数が理論モデルの予測を下回っていたことを確認した。その後、さらに大型の第2の検出器「スーパーカミオカンデ」や、カナダのサドベリー・ニュートリノ観測所によって、その不一致を説明する仕組みが明らかになった。ニュートリノには「電子ニュートリノ」「ミューニュートリノ」「タウニュートリノ」の3種類(フレーバー)があり、それらの間を行き来する「ニュートリノ振動」が起こる。ニュートリノ振動が起こるためには、ニュートリノに質量が必要になる。しかし、ニュートリノに質量があることは、当時の物理法則からは予測されていなかった(そして現在も予測できていない)。

より新しいニュートリノ検出器も、壮大な目標と驚くべき成果を生み出してきた研究の伝統を受け継いでいる。南極のアムンゼン・スコット基地の地下にある「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」は、水の代わりに南極の氷を利用している。この観測所は、ニュートリノで描いた銀河系の地図を作成し、これらの高エネルギー宇宙粒子を、超巨大ブラックホールをエネルギー源とする活動銀河までさかのぼって追跡した。また、地中海の海底では、「KM3NeT(キュービック・キロメートル・ニュートリノ望遠鏡)」が観測史上最高エネルギーの宇宙ニュートリノを検出した。その発生源はいまだ不明だ。

ニュートリノ振動と、それが生んだ数々の謎は、最新世代の検出器の開発をさらに後押ししてきた。2025年に運転を開始した中国の「江門地下ニュートリノ観測所JUNO)」が、2026年6月に公開した初期データでは、これまでに報告されたなかで最も精密なニュートリノ振動の測定結果が示された。日本の「ハイパーカミオカンデ(Hyper-K)」と、米国中西部に建設中の「深部地下ニュートリノ実験(DUNE)」も、いずれも2020年代後半の運転開始が見込まれている。

...

「深部地下ニュートリノ実験(DUNE)」では、数兆個のニュートリノを生成し、地中を1,300kmにわたって通過させることで、2つの検出器との相互作用を調べる。ひとつはフェルミ国立加速器研究所の地下60mに設置される「近検出器」、もうひとつはサウスダコタ州リードにあるサンフォード地下研究施設の地下1.5kmに設置される「遠検出器」だ。検出器の小型プロトタイプは「ProtoDUNE」と呼ばれ、スイスとフランスの国境に位置する素粒子物理学研究所CERNで実験が行なわれている。

Photograph: Matthew Kapust/Sanford Underground Research Facility
幽霊粒子「ニュートリノ」を捕まえる、科学者たちの巨大な実験装置
Photograph: Maximilien Brice/CERN

パウリが決して捕まえられないと確信していた粒子は、こうした大胆な実験によって、少しずつその秘密を明らかにしてきた。発見に至るための方法は、この70年間変わっていない。大きく考え、深く掘り、あとは辛抱強く待つことである。

※本記事は、サイモンズ財団が運営する『Quanta Magazine』(編集については同財団から独立)から許可を得て、転載されたオリジナルストーリーだ。同財団は、数学および物理・生命科学の研究開発と動向を取り上げることによって、科学に対する一般の理解を深めることを使命としている。

(Originally published on Quanta Magazine, translated by Miranda Remington, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』による物理の関連記事はこちら


Related Articles

『WIRED』日本版のポッドキャストを配信中!

幽霊粒子「ニュートリノ」を捕まえる、科学者たちの巨大な実験装置

編集長による記事の読み解き、雑誌の編集後記、アーティストやクリエイター、SF作家、フードイノベーションのスペシャリストなど、さまざまなゲストを交えたトークをお届け。 最新エピソードはこちらから→ Spotify / Apple Podcast

元のページを確認する

必要な場合のみ、広告などを含む配信元ページをフレームで表示できます。