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- 板倉秀典
2026年11月6日 06:00
エアバス・ヘリコプターズ・ジャパン(AHJ)は10月29日、神戸工場においてメディア向けに同社の最新状況を説明するブリーフィングを実施した。これは、2年おきに開催するカスタマーシンポジウムのため、仏エアバス・ヘリコプターズ本社から最高執行責任者 社長のジャン・ルック・アルフォンシ氏とEVP(執行副社長)カスタマーサポート&サービス担当のロマン・トラップ氏が来日するのに合わせたもの。
ブリーフィングでは、国土交通省航空局による「航空機設計検査認定(DOA)」の取得を発表したほか、神戸工場の施設全般の見学会も実施した。
航空機設計検査認定(DOA)を取得
AHJは、国土交通省大阪航空局から航空機設計検査認定を初めて取得したと発表した。2026年9月30日付で、AHJは同認定を取得した唯一の外国系ヘリコプターメーカーとなった。
この認定はAHJの設計活動全体を網羅するもので、最新機種や大型機を含む、日本で運用されるすべてのエアバス製ヘリコプターを対象としている。欧州航空安全庁(EASA)の規則に準拠した体制のもと、日本の任務に合わせた専用装備や複雑な構造改修に対応し、従来は航空局が行なっていた設計承認について、自社で確認できるようになった。
これまで、特別な機体改修については複数段階の申請に加え、航空機検査官による地上・飛行試験への現地立ち会いが必要だった。今回の認定と、既存の製造検査認定、整備改造認定と組み合わせることで、改修の設計から製造、検査、飛行試験までを自社内で完結できる。これら手続きの効率化により整備・改修の時間が短縮され、機体の迅速な運航復帰につながる。
日本での整備基盤と支援体制を強化
来日した最高執行責任者 社長のジャン・ルック・アルフォンシ氏とEVP(執行副社長) カスタマーサポート&サービス担当のロマン・トラップ氏によるメディアブリーフィングが行なわれ、日本との65年にわたる関係を振り返りながら、神戸工場の役割と今後の事業展開が語られた。
トラップ氏は冒頭、「日本は私たちにとって最も重要な市場の一つです。1961年に前身の会社がアルエットIIを納入して以来、今年で65周年を迎えました。今回は顧客向けのシンポジウムのために来日し、ニーズの変化や運航上の課題について話し合っています。率直な対話を重ねることが、お客さまとの信頼につながります」と、顧客と直接向き合うことの重要性を語った。
日本では360機以上の同社製ヘリコプターが活躍し、救急医療や消防防災、捜索救難などを担っている。広島県福山市の山林火災において広島市消防局の機体が消火活動で性能を発揮した事例を引用し、最新機種も消防や警察、報道の現場で運用されていることを強調した。
「日本は世界最大級のスーパーピューマ運用機数で、海上保安庁、東京消防庁、防衛省などで実績を重ね信頼を寄せていただいています。私たちは機体の提供とともに、国内に自社の整備・修理、エンジニアリング、訓練施設を持つことでお客さまの運航を支えています」
それが神戸工場である。2012年の伊丹空港からの移転後、訓練機能や整備施設を拡充し、日本とアジア太平洋地域を支える拠点へと発展してきた。取材日当日には外国の救難機関が運用するスーパーピューマの姿もあったが、こうした大型機の構造修理や重整備も一例である。また、従業員の90%以上が日本人で、地域の航空宇宙人材を育成する姿勢も示された。
続いて「日本のパイロットが国内で、日本語で訓練を受けられることは重要です。フルフライトシミュレーター(FFS)では、緊急時の手順や悪天候への対応を訓練できます。業界全体の操縦士・整備士不足に対応し、救急医療や消防防災の運航を支える資源になると考えています」とトラップ氏。
技術面で大きな節目となったのが、この日発表された「航空機設計検査認定」事業場の取得である。既存の製造・整備に関する認定と合わせ、改修に伴う設計や検査、試験を一つの拠点で進める体制が強化された。
「これは国内の技術力と、現地への権限委譲を意味します。神戸の技術者が重要な判断を担うことで、欧州との承認のやり取りを減らし、運航者のニーズに直接対応できます。機体をより早く現場へ戻すことは、災害対応や救命活動を支えることにもつながります」
質疑応答では、日本と欧州の認定制度の違いが問われた。アルフォンシ氏は、今回の認定が機体のカスタマイズや改修に重点を置くもので、審査の厳格さは欧州と同等だと説明。そのうえで、日本特有の要求については、自然災害と情報伝送の課題を挙げた。
「地震や津波などの災害時には、現場の情報を管理拠点へ迅速に送り、救助のための支援を適切に配分する必要があります。停電などが起こる状況でも情報を伝える仕組みが求められます。日本の運航者は成熟度が高く、こうした高度な装置を要求されます」
また、日本向けの開発成果を世界に展開する方針も示された。たとえば機体下部に密着する消火用タンクは神戸で開発され、今後は海外でも活用される予定だという。日本の顧客への対応が、グループ全体の技術にもつながっている。
「改修は、カスタマーが任務を遂行するために必要な要件に沿って実施します。神戸工場は、こうして得られた技術を日本国内のカスタマーのみならず、アジアに、そして世界に届ける拠点でもあります」
市場動向に関する質問には、国内需要は伸びており、これには救急医療や消防、捜索救難に加え、老朽機の更新があると回答した。世界的にも民間・軍用ともに需要が増え、生産を拡大しているものの、機種によって納入まで1~3年ほどかかる場合があるという。続いて、支援サービスの将来像が語られた。
「AIやVR(仮想現実)、AR(拡張現実)の活用を進めています。神戸ではHoloLens(頭部装着型端末)による遠隔技術支援を開発し、故障の原因究明や整備を支援します。AIによる予知整備で、必要なときに機体を使える状態を確保し、仮想現実による操縦訓練も進めています」
国内投資については、具体的には非公表としつつ、神戸を含む能力と拠点体制の強化を継続する方針が示された。また、今後はUAS(無人航空アセット)についても、有人ヘリコプターを補完する需要を見据え、日本で技術者が関連活動に取り組んでいるという。
最後にアルフォンシ氏は「日本での65年の歴史を踏まえ、これからも日本の地域社会とともに歩んでいくことをお約束します」と述べた。機体の販売だけでなく、現地での技術レベルの向上、人材育成、DXによる支援の効率化を充実させる。ブリーフィングでは、日本で培った能力を世界に展開しつつ、長期的な協力関係を深めるとの姿勢が伝わってきた。
ヘリコプターの運航を支える神戸工場を見学!
ドクターヘリや海上保安庁、警察、消防、報道など、さまざまな現場で活躍するエアバスのヘリコプター。その運航を支えるのが、AHJの神戸工場である。機体の組み立てや定期整備から部品の修理、塗装、装備の改修、操縦士や整備士の訓練まで担う現場を、担当者の案内で見学した。
2012年に開設された神戸工場は、2020年に第2格納庫を増設。アジア地域の顧客も支える拠点へと成長してきた。社員数は開設当初の約4倍となり、整備員124人のうち15人が外国籍だという。このうち「第1格納庫」の建物は約5500m2、そのうち機体の整備に使うエリアが約3000m2ある。
収容能力は「スロット」という単位で表し、20スロット(ローターを外した中型ヘリコプター20機)で、通路を含めれば最大28スロットを確保できるそうだ。見学時には23機が入っており、過去には31機を収容したこともあったという。
工場内で最初に説明されたのは、安全に関する報告を受け付ける赤いポスト。作業中に危ないと感じたことを匿名で投函し、共有する仕組みだという。たとえば作業員は「FOD」と記されたポーチを腰に着けているが、これも投書が元で実現したもの。落としやすいものをあらかじめ収納しておくことで、異物が機体や作業場所に残るのを防ぐためで、日常的な安全への配慮がうかがえた。
電気系統の整備を行なうショップ(作業場)には、多くの配線が並んでいた。使用機種や場所によって使用する配線が決まっているため、レーザーで被覆に直接印字し、識別できるようにしているそうだ。
バッテリーの点検や充電を自動で進める設備も見かけた。おそらくバッテリーの状態を自動解析し、その結果によってはデサルフュージョンなども自動で実施してその能力を最大限に維持するものだろう。
また、ここには救難信号などを試験するシールドルーム(電波暗室)も設けられている。試験のためうっかり信号を発信すると、実際の救難活動につながりかねないため、電波を外に漏らさない専用の部屋が必要なのだという。
板金作業を担うシートメタルショップには、プレス加工機や溶接設備があった。アルミや鉄、チタンなどに対応し、アジア地域の機体の部品の修理や改修も引き受けている。
ローターブレードを整備・修理するブレードショップでは、研磨やバランス調整のほか、塗装も行なうとのこと。機体とブレードを別個に塗装することで、整備全体の効率化を図っているそうだ。
また、ここも国内だけでなく、マレーシア、フィリピン、韓国などアジア各国からブレードだけが運び込まれることもあるという。反対に作業員を海外へ派遣する場合もあるとのことで、神戸の技術がアジア各地の運航を支えている状況がうかがえる。見学時には、H160のブレード整備に対応する認定取得に向け、準備を進めているとの説明もあった。
機体の全塗装や部分塗装を行なうペイントショップでは、環境負荷を減らす取り組みが紹介された。有機溶剤の再生装置によって約80%を回収できるようになり、環境に優しい水性塗料の使用も増やしているという。
ここで印象的だったのは、VRを使った塗装訓練。仮想空間で練習するため、塗料を消費せず、準備の手間も抑えられる。作業者が有機溶剤に触れることなく技能を学べるのも利点だ。ベテランの操作を記録してその動きを見返すこともできるため、若手の基礎訓練に適しているという。
2020年に竣工した「第2格納庫」は、面積約1800m2、うち航空機の整備エリアは約1000m2で、主に中小型機の整備を行なう。こちらでは、ARを活用した技術支援について話を聞いた。
頭部に装着する「HoloLens」を使い、離れた場所にいる担当者同士が現場の映像や情報を共有する仕組みである。見学時点ではエアバス・グループ内で活用しており、近い将来には顧客の整備現場と神戸工場を結ぶ遠隔支援を目指しているそうだ。
ARは塗装作業にも活用されている。機体にロゴなどを描く際、従来はその縁取りをレーザー投影して塗装していたが、これに代えてARで表示した図柄をトレースする方式に改め、作業時間を約14%短縮できたという。ARでは機体の構造材や部品を立体表示することも可能で、たとえばカスタマーの現場に実物を輸送することなくその形状や大きさを把握できるため、時間と費用の削減が期待されている。
装備の追加や改修を支えるのは、35人のAHJエンジニアリングチームである。開発や統合試験、認証に関する業務を担い、たとえば暗視ゴーグル対応の計器盤照明への改修や、飛行中に窓を安全に開閉できるかといった確認なども行なうという。
9月30日に「航空機設計検査認定」事業場の認定を取得したことにより、自社による検査・判断が可能となったため、改修期間の短縮につながる一方で責任は重大だとの説明を受けた。
最後に訪れたトレーニングセンターには、操縦訓練用のフルフライトシミュレーター(FFS)や、VRで整備を学ぶバーチャル設備、機体各部のモックアップがあった。
H135のシミュレーターは、6軸モーションで飛行中の感覚を再現する。場所や時刻、天候を設定でき、ビル屋上や海上のオイルリグ(石油掘削施設)への離着陸も訓練でき、後者は実際にオイルリグを持つ海外の操縦士訓練に役立っている。もちろん、実機では危険を伴う非常事態への対応も、安全な環境で繰り返し練習できる。
蛇足だが、見学時はコクピット内に神戸空港が投影されており、遠くに見える六甲山は雪に覆われていた。これは雪上での訓練を想定したものとのこと。FFSに隣接してデブリーフィングルームがあり、飛行をリアルタイムでモニターすることはもちろん、記録を再生して教官と訓練生が振り返ることも可能で、訓練効率は非常に高い。なお、このトレーニングセンターでは2026年9月までに操縦訓練で1935人、整備訓練で1039人を受け入れたという。
機体を整え、技術を磨き、運航を担う人を育てる。神戸工場では、それらの仕事が一つの拠点で結び付いていた。日々の安全を守る細かな工夫と、新しい技術を取り入れる試み。その積み重ねが、各地で飛び続けるヘリコプターを支えているのを実感した。








