新築にはない緑や建築の面白さにひかれて、築古マンションを購入
えむさんはInstagramで、自宅のリノベーションやインテリア、植物、愛犬との暮らしなどを発信。短期間でフォロワー数が伸び、個性的な色使いや植物を取り入れた住まいは、多くの人の関心を集めています。
えむさんは、大学生のお子さんとの二人暮らし。現在の住まいを購入する以前は、近隣の賃貸住宅に暮らしていました。当初は次の住まいも賃貸で探すつもりだったそうですが、周辺の賃料を調べてみると、それまでよりかなり負担が大きくなることが分かりました。
そこで購入も視野に入れて探し始めたところ、以前から「いつか住めたらいいな」と思っていた築古マンションで売り物件が出ていることを知ります。
えむさんがこのマンションにひかれていた理由の一つが、成熟した環境でした。
「古いマンションって建物の大きさに対して敷地が広いものが多く、緑も豊かじゃないですか。私が探していたエリアの新築マンションではなかなか得られないものだと思いました」
窓の外には大きく育った木々が広がり、季節によって景色が変化します。「緑が見えるだけですごく幸せ」とえむさん。建物そのものにも、最近のマンションとは少し違う、建築当時ならではのデザインの面白さを感じていました。
もちろん、古いマンションだからこその不安がないわけではありません。それでも、周辺で賃貸住宅を借り続けた場合の住居費なども比較したうえで、「自分の場合は購入するメリットが大きい」と判断しました。

近年あまり見られなくなった個性の際立った間取りも、築古ならでは(写真撮影/古末拓也)
築年数だけでは判断しない。見るべきは「耐震性」と「管理体制」
宅地建物取引士として不動産の知識を持つえむさんが、築古マンションを検討する際にまず挙げるのが、耐震性と管理体制です。
「築古マンションなら、一番は耐震性。そして管理体制は絶対に見てほしいです」
築年数だけで判断するのではなく、建物の構造や形状、耐震補強の有無などを確認し、自分がそのリスクをどこまで許容できるのかを考えることが大切だと言います。
実際、えむさん自身も現在のマンションについて、構造上気になる部分があることを理解したうえで購入しています。
「リスクはあります。でも、それを分かったうえで、ほかの価値を取ったという感じです」
一方で高く評価したのが、マンションの管理状態でした。管理人の勤務体制や日常の清掃、大規模修繕などの実施状況を確認し、建物が丁寧に維持されていることをプラス材料としました。
さらに、長く住み続けている人だけでなく、新たに入居する世代もいることから、「少しずつ世代交代していることも、古いマンションでは大事だと思います」とえむさん。
ほかにも、上下階から伝わる音、床の傾きや不陸(ふりく)※、断熱性能など、築古マンションでは人によって気になるポイントが異なると言います。
「音が気になるか、床の少しの傾きが気になるか。そこは個人差があります。だから、自分にとって何が許容できないのかを知っておくのも大事だと思います」
「築古だから避ける」のでも、「古い建物だから味があっていい」と無条件に肯定するのでもなく、リスクと魅力の両方を見て判断する。それが、えむさんの物件選びの基本です。
※不陸(ふりく)…床、壁、下地などの表面に凹凸やうねり、ムラがある状態。
大きなソファから間取りを考える。三角形のキッチンや梁(はり)は、あえて残した
購入時は2LDKだった住戸を、リノベーションによって1LDKへ。間仕切りをできるだけ減らし、住戸の大部分をLDKに充てました。
そのプランの中心にあったのは、実は「大きなソファ」でした。
海外ブランドのソファにひと目ぼれし、物件の購入手続きと並行して早くも注文。1シートがおよそ1m角という、日本の住宅では存在感のあるサイズです。
「このソファが主役になるためのプランニングをした、という感じですね」

大きなソファが、間取りの設計やインテリアコーディネートの核になった(写真撮影/古末拓也)
そこで、自分のための独立した寝室はつくらず、LDKをできる限り広く確保しました。一方、家族のプライバシーを確保するために必要な個室は設けています。

えむさんの個室はなく、リビングの一角を軽く仕切ってベッドスペースに(写真撮影/古末拓也)
そして、この住まいのリノベーションを特徴づけているのが、もともとの建物が持つ少し変わった形を積極的に生かしていることです。
なかでも、えむさんが購入時から気に入っていたのが、窓のある三角形のキッチン。
「すごく素敵だったので、絶対にここはそのままキッチンにしたかった」

えむさんが気に入っている三角形のキッチン。間仕切りはないが、梁により緩やかにゾーニングされている(写真撮影/古末拓也)

三角形のキッチンに、小さな丸テーブルを置いてダイニングに。テーブルの右側に見えるドアが、この家唯一の個室(写真撮影/古末拓也)
リビングの一角にも梁によって緩やかに区切られた場所があり、内見したときから「ここは絶対デスクスペース」と決めていたそうです。

リビングの一隅、三角形に飛び出した部分にデスクを造り付けてワークスペースに(写真撮影/古末拓也)
一般には邪魔なものと捉えられることもある梁も、ここでは空間を緩やかに区切る役割を果たしています。仕上げを剥がした際に現れた荒々しい部分も残し、自らクリア塗装を施しました。

天井を撤去して現れた梁。仕上げを剥がした際に一部が崩れた部分も、古い建物ならではの表情として残した(写真撮影/古末拓也)
「そこが、新築にはないリノベーションの好きなところなんです。もともとあるものを生かして、空間をどうつくるかを考えるのが好きで」
間取りを真っ白な状態から考えるのではなく、その建物にすでにあるものを読み取り、そこから新しい用途を見つける。建物の「クセ」が、えむさんにとってはプランを生み出すヒントになっています。
「畳みたくない」からオープンクローゼットに。暮らし方から逆算して考える
設計の工夫は、家事動線や収納にも表れています。
リビングスペースの中に設けた大きなオープンクローゼットは、えむさん自身の性格と家事の仕方から考えたもの。
「洗濯物を畳むのがすごく苦手なんです。服は全部ハンガーにかけています」
洗濯物はハンガーにかけて干し、乾いたらそのままクローゼットへ。収納扉の開け閉めも面倒に感じるため、基本的にはオープンです。
一方、収納を天井いっぱいまでつくらなかったのもポイント。奥行きのある収納を天井まで立ち上げると圧迫感が出るため、梁の下で高さを止め、上部を抜きました。
収納量を最大化するのではなく、自分が無理なく使えることと、空間の広がりを両立させるという考え方です。

服さえもインテリアの一部になっている。「一応カーテンをつけていますが、ほぼ開けっ放しです」(写真撮影/古末拓也)
水回りにも、既成概念にとらわれない工夫があります。
洗面台は脱衣所の中ではなく、通路側に配置しました。
「洗面って、別に脱衣所にある必要はないんじゃないかなって。外にあったほうが、帰ってきたときすぐ手を洗えて便利。それに洗面台は、おしゃれなマテリアルだと思っているので、インテリアとして見せたかったんです」

リビングとDKをつなぐスペースに設置した洗面コーナー。明るいので化粧もしやすい(写真撮影/古末拓也)

こちらは脱衣所兼ランドリー。トイレも一室化し収納をつり棚にするなどして広々と(写真撮影/古末拓也)

脱衣所内にも簡易な手洗い器を設けたので、家族とのバッティングがなくなった(写真撮影/古末拓也)
また、リノベーション工事の途中で生まれた小さな余白も、できるだけ収納として活用しました。
「リフォームって100%設計どおりにはいかなくて、現場で寸法を見ながら考えることも多いんです。少し余った空間を潰すのが好きじゃないので、『ここにも棚をつくろう』と、現場で決めた場所も結構あります」

三角形のキッチンに生まれた不整形な隙間も、棚板を取り付けて無駄なく利用した(写真撮影/古末拓也)
完成した図面をそのまま実現するだけではなく、解体して初めて分かったことや現場で生じた余白を見ながら調整していく。そこにも、建築デザイナーとしての経験が生かされています。
築古住宅の快適性を高めるため、壁や床の断熱も行いました。壁の仕上げには調湿性のある左官材を用い、床には無垢のオーク材を採用。ビニールクロスは使っていません。
「住んでみると結露が気にならず、ほこりのつき方も以前とは違うよう。素材や断熱の影響でしょうか」

壁には「シリカライム」という左官材を用いた(写真撮影/古末拓也)
カラフルだけれど「ポップではない」。暮らしながら少しずつ育てるインテリア
色鮮やかなソファや椅子、個性的な照明、そしてたくさんの植物。現在のえむさん宅は、ひと目で印象に残るインテリアです。
けれど、「昔からずっとカラフルなインテリアが好きだったわけではない」とえむさんは言います。引越すたびに部屋のテイストは変わり、現在の住まいも、大きなソファを基点として少しずつ今の姿になっていきました。
だからこそ、気に入ったものが見つからなければ急いで買いません。
リビングのシャンデリアも、入居当初からあったものではありません。天井高とのバランスやサイズの問題で納得できる照明がなかなか見つからず、1年以上、ライティングレールのスポットライトだけで過ごしました。
そしてようやく出合った照明を、店舗で何度も寸法を測ってから購入。
「迎えてみたら、最高にわが家に合っていました」

時間をかけてようやく出合えたシャンデリアは、インゴ・マウラーのデザイン(写真撮影/古末拓也)
植物も、暮らし始めてから増えたものの一つです。在宅で仕事をするようになって手入れがしやすくなり、今では室内だけでも30鉢以上。ベッドの周囲には植物を置き、壁をつくらずに寝室スペースを緩やかにゾーニングしています。
植物が増えて水やりが大変になると、後からバルコニーに水栓も追加しました。


リビングとベッドコーナーを隔てるラックにグリーンや雑貨を置いて、空間の連続性は保ちつつ、ベッドが丸見えになるのを防いでいる(写真撮影/古末拓也)
インテリアについて、えむさんは「カラフルではあるけれど、ポップではない」と表現します。
明るく植物に囲まれたリビングを「楽園」、ダークな色を取り入れた玄関を「魔界」と呼び、「光と闇のようなものが好き」と話します。Pinterestなどで見つけた海外のインテリアからヒントを得ることもありますが、そのまま再現するのではなく、自分の家に合わせて応用しています。
住まいは、引き渡された瞬間に完成するものではない。暮らし方が変われば植物が増え、不便を感じれば設備を足し、納得できるものに出合うまで家具や照明を待つ。
えむさんの家からは、暮らしながら住まいを編集していく楽しさも伝わってきます。

画集の切り抜きをコラージュして、ネオン照明を取り付けた玄関は「闇」のイメージ(写真撮影/古末拓也)
「賃貸か購入か」に正解はない。自分の物差しで住まいを選ぶ
最後に、中古マンションを検討している人へのアドバイスを尋ねると、えむさんは「賃貸と購入のどちらが得かも、一概には言えない」と話しました。
「その人や物件によって全然違うと思うんです。インターネットの情報だけに惑わされず、自分で考えて向き合ったほうがいい」
自分自身は大きな固定費を抱えることを避けたいという価値観から、住居費と収入のバランスを重視してきたそう。あわせて、収入に対して無理のある住宅ローンを組むことには慎重であるべきだとも話します。
そのうえで、えむさんが大切にしているのは「正しい選択肢」を探し続けることではありません。
「何を選択したかより、選択したほうを正解にするために生きればいいと思うんです」
築年数や資産価値、間取りの“常識”だけで住まいを決めるのではなく、自分は何を大切にしたいのか、どこまでならリスクを受け入れられるのかを考える。
築古マンションの個性を読み取りながらつくられたえむさんの住まいは、そんな「自分なりの物差しで家を選ぶこと」の面白さを教えてくれます。
DATA
| リノベーション面積(=延床面積) 2LDKから1LDKに変更 |
約56平米 |
|---|---|
| リノベーション完成 | 2023年 |
えむさんプロフィール
宅地建物取引士、インテリアコーディネーター。建築デザイナーとして働きながら、フリーランスでもリノベーションやインテリアコーディネートなどに携わる。2025年に「インフルエンサー・アワード・ジャパン2025」のLIFESTYLE部門優秀賞を受賞。