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各種モビリティと人の「混在交通」 現在と未来を考える日米合同シンポ

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 自動運転バスや電動キックボード、配送ロボットなど、新たなモビリティが次々に登場している。それらと人間が入り交じる「混在交通」の現在と未来を考える日米合同シンポジウムが9月17日、多摩大学(東京・多摩)であった。さまざまなモビリティとともに、私たちはどんな社会を築いていくのか――。自動運転車や自動配送ロボットなどの共存が始まった米国の実情も踏まえながら、課題と可能性について議論した。

多摩大学多摩キャンパス。9月の東京は連日雨模様だったが、シンポジウム当日は晴れ間も
多摩大学多摩キャンパス。9月の東京は連日雨模様だったが、シンポジウム当日は晴れ間も

自動運転バスに乗ってみた

 今回のイベントは多摩大学が主催。午後のシンポジウムに先立って、キャンパス内で自動運転バスと電動キックボードの試乗会があった。参加したのは、地域住民やモビリティ企業の関係者、研究者、子どもたち。2種類のモビリティが同じ場所で同時に走る「混在交通実験」でもある。

 「早く乗ってみたい!」「友達と一緒に乗っていい?」。クラス全員で自動運転バスの試乗に訪れた多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の中学1年生は、順番を待ちながら笑顔で声を上げていた。

自動運転バス(右)と電動キックボードの混在交通実験。十二単(ひとえ)をイメージしたバスのラッピングは、三重県での実証実験で用いられたものだ
自動運転バス(右)と電動キックボードの混在交通実験。十二単(ひとえ)をイメージしたバスのラッピングは、三重県での実証実験で用いられたものだ

 自動運転バスには、バス製造元の担当者1人と最大5人の参加者が順番に乗り込んだ。もちろん運転席はなく、センサーが検知した障害物などがディスプレーに映し出されている。参加者は対面シートに向かい合って座り、担当者の説明を聞きながら自動運転バスの乗り心地を味わった。

 筆者も試乗してみたところ、急ブレーキや急ハンドルの場面はなく、運転手がいなくても怖くはなかった。自動運転バスに初めて乗ったという男性は「思ったより自然だった」という。「自分は車を運転するので、運転手がいないことに少し抵抗があった。運転をしない子どもたちがどう感じるのか気になる」

 すぐそばには電動キックボードの試乗コーナーがあり、動いているバスや周囲の建物、見学する人たちを気にしながら、参加者たちが運転に挑戦した。「意外にスピードが出た」「免許がなくても公道を運転できるとは驚き」などと話していた。

 自動運転バスや電動キックボードに試乗することで、参加者たちは新たなモビリティを身近に感じたようだ。今回の混在交通実験のねらいについて、担当者は「まずは知ってもらい、乗ってもらうことが重要」と話した。

歩行者の動きに的確に対応できるか

 シンポジウムの会場には、自動運転バスに試乗した人たち、学生や研究者、自治体や民間企業の関係者らが集まった。モビリティに関する技術・社会・倫理などに詳しい日米の専門家6人が2つのセッションに分かれて最新事情や研究成果などを紹介した後、パネルディスカッションで現状や課題について議論。最後のワークショップでは、参加者と専門家が対話を重ねた。

多摩大学の樋笠さんは、シンポジウムの冒頭で昨今の自動運転タクシーの導入などのニュースに触れながら「混在交通」の概念を紹介した
多摩大学の樋笠さんは、シンポジウムの冒頭で昨今の自動運転タクシーの導入などのニュースに触れながら「混在交通」の概念を紹介した

 シンポジウムの冒頭で多摩大学経営情報学部准教授の樋笠尭士(ひかさ・たかし)さんが主催者として挨拶に立った。自動運転タクシーのニュースなどに触れながら混在交通の概念を紹介し、「多様化するモビリティの中で、車道をどう使うのかが問題になっている」「日米が共通して抱える交通課題について、研究成果や知見を共有したい」と述べた。

 最初のセッションは「技術」がテーマ。大阪公立大学工学研究科教授の中川智皓(ちひろ)さん、米カリフォルニア大学バークレー校のチンヤオ・チャンさんとペギー・ワンさんの3人が登壇した。

 世界中で多様なモビリティが開発されている現状について、中川さんは、モビリティの車輪の数や構造によってその特性が異なるという研究結果などを紹介。チャンさんは、米サンフランシスコで撮影された映像などから自動運転タクシーや自動運転トラックの普及が進む米国の状況を具体的な事例とともに紹介した。

 一方、ワンさんは、自動運転車と歩行者との関係について取り上げた。米国での自動運転の実証実験の分析結果を示しながら、「車が走る軌道は予測しやすいが、歩行者は突然どこからでも現れうる」と指摘。歩行者の多様な行動をどう捉えるかが、自動運転車の運用における課題の一つだと語った。

(左から)中川さん、チャンさん、ワンさん
(左から)中川さん、チャンさん、ワンさん

いずれは特別なものでなくなる

 次の「社会的受容性」のセッションでは、新たな技術を社会実装する際に生じる倫理的・法的・社会的課題である「ELSI(エルシー)」を念頭に、新しいモビリティを社会がどう受け入れていくかを考えた。多摩大学の樋笠さんと専任講師の田中友理さん、自動運転車などモビリティのコンサルティングをする米アーバン・イノベート社CEOで米サンフランシスコ大学非常勤教授のアンリエット・コルネさんが登壇した。

 樋笠さんは、新しい技術が社会に受け入れられた例としてエレベーターを挙げた。日本で導入され始めた100年以上前、不安を感じる人が少なくなかったかもしれないが、昇降を繰り返しても落下事故が起きないことや、扉に人が挟まらないような仕組みが備わっていることなど、エレベーターの安全性が理解された結果、広く社会に定着してきたという。「技術の認識があって、その上でリスクを知り、どうやったら解消されるかのかが分かっている。その段階で技術が社会に受容される」

 また、田中さんは、自動運転車の事故を想定する「シナリオ実験」を紹介した。実験で想定したのは、自動走行中に歩行者と衝突するか、それを避けるために高額な車にぶつけるか、という場面。どちらを選ぶべきかを被験者に尋ねた結果、「人身事故を避けるべきだ」と考える人が多かったものの、人のけがの程度や物的損害の大きさなど設定された状況によっては意見が分かれることもあったという。その上で田中さんは、事故時の判断や責任のあり方について、あらかじめルールや補償制度を整備しておく必要があると指摘した。

(左から)樋笠さん、田中さん、コルネさん
(左から)樋笠さん、田中さん、コルネさん

 コルネさんは「技術はグローバルでも、導入はローカルだ」として、地域ごとの事情を踏まえながら対話を重ねる重要性を強調した。と同時に、「パブリック・パーセプション(社会の人々がどう認識しているか)は本当に重要なのでしょうか?」とも問いかけた。地下鉄に運転手がいるのかどうかを誰も気にしないように、いずれは自動運転も特別なものではなくなる可能性があるという。

2035年の道路、どうなっている?

 続いてパネルディスカッションがあり、「2035年の道路」をテーマに専門家らが議論した。自動運転バスなど各種モビリティが普及すれば利便性が向上し、高齢者や障がいのある人などにとっても移動の選択肢が増える。その一方で、公共交通とどう共存するのか、地域間で普及の格差が生じるのではないかといった課題もある。

 「混在交通」の社会を実現するには何が必要なのか。樋笠さんは「普及と認知の掛け算になる」と述べ、利用者が増えることで技術への理解も広がるとの考えを示した。コルネさんは、導入の目的を社会全体で共有することが欠かせないと指摘し、「人とモビリティが共存するためには、地域ごとの対話を重ねる必要がある」と訴えた。

シンポジウムには、学生や研究者、自治体や民間企業の関係者らが集まった
シンポジウムには、学生や研究者、自治体や民間企業の関係者らが集まった

 最後に「Future Inclusive Road 2035 みんなで描く未来の包括的な道」と題したワークショップで、登壇者や参加者みんなで2035年の交通社会を考えた。

 あらかじめ参加者には「地域住民」「ベビーカー利用者」「高齢者」「自転車利用者」「電動キックボード利用者」などと書かれたカードが配られ、「あなたの立場から、未来の道路に一つだけ追加したいものは何ですか?」というお題が出されていた。参加者はシンポジウムの合間にアイデアを記入し、会場内のボードに貼り付けた。

 「自動で速度調整するモビリティ」「自動走行アシスト付きのベビーカー」「高齢者も子どもも動物も安心して移動できる仕組みづくり」など、様々なアイデアが出た。登壇した専門家たちは、参加者から寄せられたアイデアに「ユニークな視点」「たしかに重要だ」といった反応を示しながら、それぞれの専門分野の知見を紹介した。会場からの提案に専門家ならではの知見が重なり、未来の「混在交通」の姿が徐々に浮かび上がった。

パネルディスカッションやワークショップの概要は、イラストと文字で記録する「グラフィックレコーディング」の手法でまとめられた(多摩大学提供)
パネルディスカッションやワークショップの概要は、イラストと文字で記録する「グラフィックレコーディング」の手法でまとめられた(多摩大学提供)

 シンポジウムが終わった後、参加者に話を聞いてみた。「ELSIの観点から米国の先進事例を知ることができてよかった」「技術は十分に知られてから導入するべきか、それとも実際に使われる中で理解されていくのかという議論が印象に残った」など、前向きな感想が多かった。

 混在交通実験では自動運転バスの試乗などで「未来の交通」に触れ、シンポジウムでは研究者や市民らが「混在交通」の将来像に思いをはせる――。モビリティ技術と社会の関係について、多様な角度から考える1日となった。

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