身近な困りごとに対処するアイデアを研究者と市民が一緒になって生み出す「研究者大喜利〜日常に潜むピンチを救う!?科学の力で解決編〜」が、サイエンスアゴラ2026(東京・お台場)で9月13日に行われた。会場には子どもから大人まで約30人が集まり、異なる専門の研究者5人とやり取りしながら「テストでどうしても思い出せない? 絶対に忘れない方法」と「スマホの充電がない! いますぐ爆速で充電するには?」のお題2つに挑んだ。

教育心理学から音響細胞工学まで異分野の専門家が集結
研究者大喜利は、寄席で与えられたお題に対し、発想力やユーモアを生かして面白い回答を考える大喜利にちなむ。お題に対して来場者が自由にアイデアを出し、専門の異なる研究者がそれぞれの最新の知見をもとに実現可能性を探っていくものだ。2022年から毎年開催されている。
企画したのは、企業と研究者をマッチングして産学連携を促す2019年創業のベンチャー企業アークレブ(東京都港区)だ。代表取締役で、自身もソフトマターの自己組織化現象を研究する工学博士である浅井誠さんによると、この大喜利は新型コロナウイルスの感染拡大で思うように研究を進められない時期に、専門分野の異なる研究者仲間がオンラインで集まったのがきっかけで生まれた。
お酒を飲んでたわいもない話をする中で自然と研究の話になり、互いの専門性を持ち寄った思いがけないやり取りが生まれた。そこから「こういうことを皆で一緒にやったら面白いのでは」と考えたという。企業と連携して開催する研究者大喜利では、生まれたアイデアが製品化に向けて動き出した例もあるそうだ。
この日は、教育心理学・学習科学、ロボット・AI、光、脳科学、音響細胞工学と異なる分野を専門とする5人の研究者が登壇した。

絶対に忘れない方法は替え歌、恋、超音波…
1つ目のお題である「テストでどうしても思い出せない? 絶対に忘れない方法」は、初めに慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の大喜多優教授が、「テストに向けて知識を詰め込んだのに、いざテストになると思い出せない」というありがちな状況を、「ものを押し入れに詰め込んだ結果、あることは分かっていても、どこにあるのか分からない状態」と片付けになぞらえて説明した。知識を断片的に理解しても、整理されず、全体のつながりを捉えられていなければ、必要な時にうまく引き出せないのだ。
対策として、1つのテーマから枝を伸ばすように知識を書き出し可視化する「マインドマッピング」がある。可視化することでイメージを手掛かりに記憶を引き出しやすくするものだ。ほかにも、バラバラで覚えにくい大量の情報を意味のあるまとまりにして覚える「チャンキング」や、新しく学んだことをすでに知っていることと関連付ける方法も紹介した。


大喜多教授の発表が終わると来場者は「絶対に忘れない」ためのアイデアをスマホで一斉に入力した。おなじみのアイデアとして出てきたのは「替え歌にして覚える」。大喜多教授は、「ただ歌を聞くよりも、自分で替え歌を作るほうが学びにつながるのではないか」と意見を述べた。自分にも他の人にも分かるように工夫して作ることが、「人に教える」ことと似た学習効果を持つそうだ。
量子科学技術研究開発機構量子生命科学研究所の揚妻正和主幹研究員は「各教科に恋をする」というアイデアを取り上げ、研究室のマウスにおいしい餌をあげる時に音を聞かせることを繰り返すと、そのうちマウスは音を聞くだけで舌を出すようになることを紹介し、人も教科を好きになることで自然と知識を覚えられるようになるのでは、と話した。感覚や体の動きを利用する「香水をつけて勉強し、テストの時にも同じ香りを嗅ぐ」、「ペンを動かす動作をきっかけに思い出す」といったアイデアも出てきた。
「マシンと脳をつなぐ」「AIグラスに必要な情報を表示させる」といった、「覚え方」そのものに関するアイデアも登場。東京大学大学院工学系研究科の今城哉裕講師が、「教室に超音波スピーカーを設置し、指向性のある音で答えを自分だけに届ける」という、カンニングが疑われるアイデアを披露すると、会場から笑い声が上がった。
VRで「頭が真っ白」を回避できる可能性も
「学んだことが身についているかを確認することが試験の目的なら、緊張して思い出せないことまで評価する必要があるのか」「そもそもテストのやり方を変えればよいのでは」と、テストの意義を問う意見も出た。「試験をアトラクションのようなゲーム形式にする」というテストをエンターテインメント化する案にうなずく来場者も多かった。
大喜利でお題とした「テストで忘れる」状況には、「テスト用紙が配られた途端、緊張して頭が真っ白になる」悩みも含まれるだろう。大喜多教授は、勉強している時の環境とテストを受ける時の環境が大きく異なると、覚えたことをうまく引き出せない場合があると話した。
同じ場所または似たような場所を再訪すると、以前訪れた時に何を考えていたか、何を経験したかを思い出すように、記憶は周囲の状況とも関係している。こうした考え方から、VR(仮想現実)などを使って本番に近い環境で学ぶことで「頭が真っ白」を回避できる可能性にも触れた。
問題を間違えた時に「なぜ自分はこの答えを出したのか」を自らに問いかけることや、自分が学んだことを誰かに教えることで理解を深めることなどにより、知識を整理して記憶の定着を促すアプローチも紹介した。
スマホを爆速充電、電気の融通や街での蓄電に道
2つ目のお題「スマホの充電がない! いますぐ爆速で充電するには?」については、会場からは「スマホを振って、その振動で充電する」「体を動かした時の熱や心臓の拍動まで発電に使えないか」という発想のほか、「暑い日の熱を利用する」といったアイデアが出た。
「他の人のスマホから電力をもらう」というアイデアが出ると、議論は発電方法から必要な場所へ電気を融通する方向へ発展した。ある工場では、充電のためにロボットを長時間止めなくてもよいようバッテリーを交換する仕組みも使われている、とウーブン・バイ・トヨタ株式会社の大槻将久氏が紹介し、将来はスマホでも人と人の間で電力をやり取りするような仕組みが実現するかもしれないとの話が出た。
一方、必要な時に一気に充電するのではなく、普段から身の回りにあるわずかなエネルギーを集め続ける発想も。歩いている時の振動や体の熱、建物を吹き抜ける風、雨水、室外機から出る熱など、普段は利用されていないエネルギーを少しずつ電気に変えて蓄えておく。さらには、建物そのものに電気を蓄え、街のあちこちから電力を受け取れる未来や、「もしかすると未来には、充電行為そのものがなくなるのでは」という発想にまで広がった。
光学が専門の慶應義塾大学理工学部電気情報工学科の田邉孝純教授は、真空中を秒速約30万キロメートルで進む光を小さな空間「微小光共振器」に閉じ込めたり、ガラスなどの物質の中では真空中よりも光が遅く進むことを利用して速度を下げたりする研究から、電気を光に置き換え、「光で計算する」ことで省エネなコンピューターの実現を目指している。将来は超省エネ・超高速のコンピューターが実現し、スマートフォンの電池をより長く持たせることにもつながるかもしれないと紹介した。


建物そのものが電池になったり、身の回りから常に少しずつ電力が供給されたり、さらにはスマホ自体がなくなったりするかもしれない。来場者の自由な発想と研究者の知識が交わり、未来の街の姿を描き出した。
「人生には多様な選択肢がある」と気付くきっかけに
アークレブの浅井さんによると、サイエンスアゴラの研究者大喜利には、研究者と一般の人との接点をつくる狙いもあるという。大喜利では、研究者は来場者から突然投げかけられるアイデアに台本なしで答えなければならない。無茶振りに対して研究者が時には慌て、悩み、そして楽しみながら自分の知識を総動員してなんとか応えようとする姿を見れば、「大学の先生や研究者って、意外と身近な人なんだ」と感じてもらえるのではないかと浅井さんは話す。
実際、研究者大喜利に毎年来場する人や、別の機会に参加した後「大学に進み、研究者を目指している」と伝えてくれた人もいたそうだ。「まだまだ小さなインパクト」としながらも、「研究者って面白い」と感じてくれる人たちがいるという。
この大喜利の魅力として改めて挙がるのは、研究者の「パーソナルなところ」に触れられることだ。研究成果について説明を聞くのとは少し違う。浅井さんが言うように、研究の道を歩む人たちの実態に触れることで、子どもたちが「人生にはもっと多様な選択肢がある」と気付くきっかけになるだろう、と筆者も思った。

関連リンク
- 株式会社アークレブ公式note
「研究者大喜利 〜日常に潜むピンチを救う!?科学の力で解決編〜」
「研究者大喜利 in サイエンスアゴラ2026 開催レポート」