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今夏、世界で豪雨や熱波が頻発 「極端気象」の背景に、進む地球温暖化

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 この夏、西日本では記録的な猛暑となり、首都圏や北陸などを激しい豪雨が襲った。欧米も猛暑と熱波に見舞われ、森林火災が相次いだ。極端な気象現象が世界各地で相次ぎ、気候危機が浮き彫りになった。もはや世界各地の甚大被害は、独立して起きる偶発的な出来事とは言えなくなっている。背景には地球温暖化があるとみられ、国を超えて多くの人々が危機感を抱いている。

 国際機関や専門家は「温暖化という共通の土台の上に、さらに偏西風の蛇行やエルニーニョ現象といった自然の変動や地域特有の大気・地形条件が重なり、自然災害が増幅されている」と指摘する。気象庁の検討会は、7月中旬から8月上旬にかけての西日本の高温について、「温暖化がなかったらほぼ発生し得なかった」と結論付けた。全国どこでも起こり得る豪雨や土砂災害に対する身近な備えも求められる。

猛暑のイメージ画像。世界気象機関(WMO)が8月12日に公表した報告書から(WMO提供)
猛暑のイメージ画像。世界気象機関(WMO)が8月12日に公表した報告書から(WMO提供)

西日本で5連続酷暑、九州北部では記録的少雨

 気象庁の異常気象分析検討会(会長・中村尚東京大学名誉教授)は9月1日、この夏に全国各地で頻発した極端気象を詳しく分析する会合を開き、終了後の記者会見で結果を発表した。西日本の猛暑と少雨、台風の頻発、千葉県の豪雨などは、それぞれ異なる大気・気象条件が複雑に関係していたことが明らかになった。

 西日本の平均気温は、統計を開始した1946年以降で3番目の高さ。最高気温40度以上の「酷暑日」を観測したのは延べ36地点に達し、気象庁が集計を始めた2010年以降で最多となった。一方、西日本では梅雨明け後、まとまった雨が降らない状態が続き、九州北部地方の8月の降水量は平年比でわずか12%ほどしかなく、1946年以降で最少を記録した。

 検討会の分析によると、高温と少雨をもたらした直接的な要因は、日本付近を流れる偏西風の大きな蛇行だという。ユーラシア大陸から日本付近にかけて偏西風が平年より北を流れ、西日本は上空から地上付近まで発達した「背の高い高気圧」に覆われた。

7月7日~8月29日、西日本付近は、上空から地上付近まで発達した「背の高い高気圧」(中央やや左のH)に覆われた(気象庁提供)
7月7日~8月29日、西日本付近は、上空から地上付近まで発達した「背の高い高気圧」(中央やや左のH)に覆われた(気象庁提供)

 特に7月下旬から8月初めにかけては晴天による強い日射が注いだことに加え、上層から下層まで高気圧に覆われて下降気流が目立っていた。下降した空気が「断熱昇温」という現象によって温度が顕著に上昇。太平洋高気圧の縁を回って暖かい空気が流れ込んだことも、気温の上昇を後押しした。

 一般的に少雨により土壌が乾燥すると、地表面から水分が蒸発する際に使われる熱が減るため、地表と大気を暖める熱が増加する。高温が乾燥を進め、乾燥がさらに気温を上げるという悪循環に陥ることがある。

7月7日以降の熊本市と松江市の積算降水量。赤い線が2026年、灰色の線が1946年以降の各年の積算降水量を示す(気象庁提供)
7月7日以降の熊本市と松江市の積算降水量。赤い線が2026年、灰色の線が1946年以降の各年の積算降水量を示す(気象庁提供)

温暖化が猛暑の「土台」を押し上げた

 ここ数年の猛暑は、偏西風の蛇行と関係があると指摘されてきた。ただ、偏西風の蛇行はこれまでも繰り返し起きてきた気象現象であり、それだけでは最近の記録的な猛暑を説明できない。

 東京大学大気海洋研究所の渡部雅浩教授や京都大学の研究者らでつくる「極端気象アトリビューションセンター(WAC)」は、7月11日から25日に西日本を中心に観測された上空約1500メートルの高温について、「アトリビューション」と呼ばれるコンピューターを駆使した手法で分析した。現実に温暖化した気候と、人間活動による温暖化がなかったと仮定してコンピューター上につくった気候について、西日本の高温がどのくらい起こり得るかを比較したのだ。

 その結果、1991~2020年の平年の気象条件では「約74年に1度」にとどまっていたが、温暖化が進んだ26年の気象条件では「約37年に1度」となり、発生頻度が約2倍に高まったことが判明。さらに、人間の活動による温暖化がなかったと仮定した気候条件では、このレベルの高温発生確率は約0.006%となった。WACは「地球温暖化がなければこのレベルの高温は起こり得なかった」との分析結果を8月3日に公表している。

 これとは別に、文部科学省の研究プログラムと気象研究所の合同チームは9月1日、やはりアトリビューションの手法による解析結果から、「7月中旬から8月上旬の西日本の記録的な高温は温暖化が寄与した」と発表している。気象庁検討会の中村会長は記者会見で「偏西風が日本付近を北に蛇行して流れ、背の高い暖かい高気圧に覆われるという状況になると、温暖化の影響も加わってこれまでよりさらに気温が上がる」と説明した。

2010年以降の夏期間の酷暑日と猛暑日を観測した地点数の推移(気象庁提供)
2010年以降の夏期間の酷暑日と猛暑日を観測した地点数の推移(気象庁提供)
気象庁の異常気象分析検討会の中村尚会長(防災学術連携体提供)
気象庁の異常気象分析検討会の中村尚会長(防災学術連携体提供)

千葉豪雨は「非常にまれな現象」

 気象庁の検討会は、今夏の台風や8月の千葉豪雨についても分析した。首都圏の通勤・通学圏でもある千葉県では、同月13日夕方から14日未明にかけて記録的な豪雨となり、千葉市では24時間の降水量が367ミリ、1時間の降水量が115ミリと、いずれも観測史上1位となった。広範囲の浸水被害を出したほか、交通機関にも大きな影響が出た。

 検討会の分析によると、房総半島付近では東から流入した暖かく湿った空気と、上層の強い寒気の影響で大気の状態が非常に不安定だった。一方、関東内陸部では日中の対流活動に伴う降水によって冷たい空気の層が拡大し、その東端に当たる房総半島付近で、東から流入する暖かく湿った空気との間で局地的な前線(シアーライン)が形成された。その結果、積乱雲が次々に発生して線状降水帯ができ、一部の雲は高度15キロ以上にまで発達した。中村会長は「非常にまれな現象で、異常気象と呼んで差し支えない」と述べた。

千葉豪雨の直後に上空から被害を調査する国土交通省関東地方整備局のヘリが撮影した動画から(同地方整備局提供)
千葉豪雨の直後に上空から被害を調査する国土交通省関東地方整備局のヘリが撮影した動画から(同地方整備局提供)
千葉豪雨の後、冠水地域で活動する国土交通省関東地方整備局の緊急災害対策派遣隊(同地方整備局提供)
千葉豪雨の後、冠水地域で活動する国土交通省関東地方整備局の緊急災害対策派遣隊(同地方整備局提供)
千葉豪雨をもたらした対流システムの構造を示す図(気象庁提供)
千葉豪雨をもたらした対流システムの構造を示す図(気象庁提供)

 台風については、今年は6~8月の間に17個が発生。平年の11個を大きく上回り、1951年の統計開始以降で3番目に多い記録に並んだ。この原因について検討会は、熱帯域で東から西に吹く偏東風の中を西進する「偏東風波動」という大気の流れが活発だったことを挙げた。偏東風波動は、顕著なエルニーニョ現象の影響で起きた可能性があると指摘している。

 頻発した台風の中でも15号は、日本の東の海上から茨城県に上陸し、本州を西へ横断するという、過去にあまり例のない進路を取った。その背景には、日本の南の海上に形成された「モンスーンジャイア」と呼ばれる大規模な低気圧と、日本の東の海上に停滞した勢力の強い高気圧があった。台風15号は両者の間の流れに沿って、日本付近では異例となる西向きの進路を取った。また、偏西風が本州付近から日本の東の海上で南北2つに分かれ、このうち南側の偏西風の蛇行によって複数の上層寒冷渦が日本付近へ南下したことも、台風15号の進路に影響した。

 中村会長は、温暖化による海面水温の上昇で水蒸気量が増えたことが雨量や台風の勢力に影響した可能性を挙げ、「過去の経験や常識が通用しづらくなってきている」と強調している。

 今夏、線状降水帯は全国どこでも発生する、ということが如実に示された。中村会長や気象庁の担当者は記者会見で、「線状降水帯の発生位置を直前に正確に予測するにはまだ課題があり、今後、精度の向上に取り組む」と述べた。地震対策と同様に、豪雨や土砂災害に対する身の回りの備えを急ぎたい。

今夏後半の特徴的な天候をもたらした大気の流れの模式図(気象庁提供)
今夏後半の特徴的な天候をもたらした大気の流れの模式図(気象庁提供)

世界各地で「観測史上最も暑い7月」

 「気象が異常な夏」は日本だけではない。世界気象機関(WMO)は8月12日、北半球の広い範囲で記録的な高温、干ばつ、森林火災、洪水が相次いでいるとする報告書を公表した。米海洋大気局(NOAA)の解析によると今年の7月は、2024年と並んで観測史上最も暑い7月となった。中でも北米、アフリカ、アジアでは、それぞれ最も暑い7月となった。

 欧州連合(EU)の気象情報機構「コペルニクス気候変動サービス」によると、西欧は観測史上最も暑い6~7月を経験した。8月10日の発表では、この期間の西欧の平均気温は21.62度となり、両月の平均としては観測史上最高になった。欧州ではドイツやチェコで6月下旬に最高気温40度を超え、国内の最高気温記録を更新した。

 欧州からの報道によると、フランス、スペイン、英国、ドイツなどでは降水量や土壌水分が著しく少なくなり、セーヌ川、ライン川、ドナウ川などの流量が低下した。ライン川やドナウ川では水位の大幅な低下により船舶の運航が制限され、物流や発電にも影響が出た。フランスとスペインでは大規模な森林火災が発生した。高温と乾燥は大規模な森林火災が発生しやすい条件をつくったとみられ、生態系にも深刻な影響を及ぼしている。

2026年7月の世界各地の異常気象の発生地図(NOAA提供)
2026年7月の世界各地の異常気象の発生地図(NOAA提供)

 英国気象庁は、イングランド東部で6月26日に37.7度を観測し、1976年の記録を更新したと発表している。また英国保健安全保障庁は7月30日、イングランドで5~6月の熱波に関連した死者数が2877人に上ったとする暫定推計を公表した。

 米国でも7月初旬から厳しい熱波に襲われ、東海岸のニューヨークやボストンなどの都市で記録的な暑さを記録。同月4日の建国250年を祝う独立記念日のイベントの一部が中止になった。またこの夏にオレゴン、ワシントン、ネバタ、コロラドの各州で大規模森林火災が発生している。

2026年7月の米国内の平均気温を、1895~2026年の観測記録に基づく7月の平年値と比較した。白色の地域は平年値と同程度、赤色が濃くなるほど平年値より高かった地域を示す。米国の7月平均気温は観測史上最も暑い7月となった(NOAA提供)
2026年7月の米国内の平均気温を、1895~2026年の観測記録に基づく7月の平年値と比較した。白色の地域は平年値と同程度、赤色が濃くなるほど平年値より高かった地域を示す。米国の7月平均気温は観測史上最も暑い7月となった(NOAA提供)

ネパールでは氷河崩壊で土石流が発生

 温暖化の影響は、気温や降雨だけでなく、山岳地帯の氷河にも表れている。ネパールと中国の国境地帯では8月26日、氷河と岩盤を含む大規模な斜面崩壊が発生。大量の氷や岩石、土砂、泥が一体となった土石流が、集落や道路、水力発電施設をすさまじい勢いで襲った。9月10日現在の現地からの報道によると、ネパールと中国・チベット自治区を合わせて少なくとも1380人が死亡し、約5500人が行方不明となっている。被災地では捜索と遺体の身元確認が続いており、犠牲者の数は今後増える可能性がある。

 氷河湖をせき止めている堤防が決壊する典型的な「氷河湖決壊洪水」とは異なり、氷河と岩盤の崩落を発端とする連鎖的な複合災害とみられている。

 WMOによると、世界には27万を超える氷河があり、総面積は日本の国土の約2倍に当たる約70万平方キロにも及ぶ。氷河が気温上昇によって薄くなり、永久凍土が融解すれば、岩盤を固定する力が弱まるとされてきた。今回の斜面崩壊に温暖化がどのくらい関係したのかについては未解明だが、温暖化によって氷河崩壊や氷河湖決壊洪水の危険が増大していることは、WMOや国連、ヒマラヤ地域の研究機関が繰り返し警告してきた。

 インド北部では中国国境近くで2021年2月、岩盤と氷雪の大規模な崩壊による雪崩や土石流が発生し、死者・行方不明者は200人を超え、水力発電施設も大きな被害を受けたと伝えられた。今回のネパール・中国での土石流でも、建設中のものを含む多数の水力発電所が被災した。温暖化を抑えるために欠かせない水力発電が、温暖化のせいで増大する氷河災害に脅かされた形だ。

ネパール北部を流れるトリシュリ川の衛星画像(左=8月27日、右=12日)。26日の土石流によって川幅が大きく広がった様子が分かる(コペルニクス・センチネル2衛星撮影/ESA提供)
ネパール北部を流れるトリシュリ川の衛星画像(左=8月27日、右=12日)。26日の土石流によって川幅が大きく広がった様子が分かる(コペルニクス・センチネル2衛星撮影/ESA提供)

「新しい日常」になりつつある極端気象

 日本のほか、世界各地でこの夏に頻発した熱波や豪雨、台風、洪水には、それぞれ固有の気象条件が絡んでいる。偏西風の蛇行、エルニーニョ現象、高気圧、寒冷渦、地形、海面水温などの要因が複雑に組み合わさって発生する。

 このため、多くの気象専門家は「異常気象や極端気象が温暖化だけで起きた、と単純化するのは正確ではない」と指摘する。気象を左右する大気の現象には様々な要因が複雑に絡んでおり、それらに温暖化が影響して異常気象や極端気象の「土台」を押し上げたと考えるのが正しいだろう。

 温暖化は多くの気象現象が発生する背景を確実に変えつつある。気温を高くし、海洋に熱を蓄えさせ、大気中の水蒸気を増やす。陸地では土壌を乾燥させ、氷河と永久凍土を不安定にする。こうした環境変化に「自然の変動」が重なることで、極端気象がかつてより強く、またより頻繁に起きるようになっていると言える。

 「気候危機」の時代を迎えていることは明らかで、温暖化の進行を少しでも抑えるために二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」は待ったなしだ。同時に、猛暑に耐えられる都市づくり、洪水警戒網、森林火災対策、氷河湖の監視、災害に強いインフラなどの「適応策」も喫緊の重い課題だ。

 2026年夏の世界は、極端気象が一時的な例外ではなく、新しい日常になりつつあることを残酷な形で示している。

「気候危機」を脱するには、温室効果ガスを削減して温暖化を抑えないといけない(国連提供)
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