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東京工科大学教養学環教授
※本稿は、落合浩太郎『面白すぎて時間を忘れる「スパイ」の世界』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
スパイも毎日「デスクワーク」に追われている
映画やドラマに登場するインテリジェンスの主役たちは、常にオフィスを飛び出し、異国の地で華麗な隠密工作に明け暮れている。
しかし、現実の情報機関で目にするのは、山積みの書類やパソコンに向かう無数の職員の姿だ。彼らは黙々とキーボードを叩く、いわば「サラリーマン」である。
実際、多くの職種では、極めて一般的なデスクワークが業務の大きな部分を占める。国際情勢の報告書作成や上層部との会議、膨大なメール処理などに追われているのだ。
現実のインテリジェンスの世界には、明確に区別される2つの役割が存在する。
それが「オフィサー(諜報機関員)」と「エージェント(情報提供者)」だ。高度な訓練を受けたエリートであるオフィサーが、自ら夜陰に乗じて忍び込み、秘密の金庫から重要書類を盗み出すといったことは基本的にない。
もちろん、例外はある。2018年にイスラエルのモサドが、イランのテヘランから核計画に関する大量の文書を持ち出したとされる作戦などがそれだ。しかし、このような派手な工作は、極めて稀なケースにすぎない。
繰り返しになるが、オフィサーの真の任務とは、機密情報にアクセスできる人物を「エージェント」としてリクルートし、適切に管理・運用することにある。
そのため、日々の業務の多くは驚くほど地味だ。担当しているエージェントの個人的な悩みに耳を傾け、仕事や家庭の相談に乗る。
彼らが抱える恐怖や良心の呵責、協力の動機を把握しながら、信頼関係を維持していく。オフィサーの仕事とは、こうした地味で忍耐強い人間関係の構築にこそあるのである。
