「きれいな花をもっと増やしたい」。もしそんな善意から行われたものだったとしても、自然の中では逆に、その土地本来の植物を失わせることにつながりかねません。
愛知県豊橋市の国指定天然記念物「葦毛(いもう)湿原」で、外部から持ち込まれたとみられるサギソウの球根が投げ込まれていたことが分かりました。豊橋市が10月1日に発表しています。
■ 不自然に密集して咲くサギソウ 213株を除去
豊橋市によると、2026年8月12日、葦毛湿原の木道沿いの狭い範囲に、多くのサギソウが開花しているのを確認したとのこと。
サギソウ自体はもともと葦毛湿原に自生する植物です。しかし今回は、自然界ではありえないほど密集した状態で生えていたことなどから、外部から球根が投げ込まれたものと判断。投げ込みは3月ごろに行われたと推定されています。
豊橋市文化財センターと豊橋湿原保護の会は8月25日に除去作業を実施。5地点から計213株を取り除きました。
■ 同じ「サギソウ」でも持ち込んではいけない
一見すると、「もともと生えているサギソウなら、増えても問題ないのでは」と思うかもしれません。
しかし、市によると国内在来種のサギソウと栽培種は交雑しやすく、別の地域や栽培環境から持ち込まれた個体と交雑すると、その土地に固有の遺伝的な特徴が失われる「遺伝子汚染」につながり「雑種」となってしまいます。
雑種となれば、その場所に本来存在していた地域固有のサギソウとしては認められなくなり、市は「オリジナルの地域固有種としては認められず、絶滅したと判断されます」と説明しています。
■ 過去にも球根の投げ込み 市「絶対にやめてください」
葦毛湿原でサギソウの球根が投げ込まれたのは今回が初めてではなく、2020年と2025年にも確認されています。しかも投げ込まれたサギソウの球根からは、植物ウイルスへの感染も確認されているとのこと。
豊橋市は今回についても文化庁や豊橋警察署に報告・相談し、現地に警告文を記した看板を設置する予定です。
葦毛湿原は、豊橋市東部に広がる国内最大級の湧水湿地。2021年に国の天然記念物に指定され、さまざまな地域的特徴を持つ植物が混在する、貴重な生態系が残されています。
市は、園芸種や外国産の植物だけでなく、国内の植物であっても別の地域から持ち込めば、その土地本来の自然を壊すことになるとして、「絶対にやめてください」と強く呼びかけています。
なお、葦毛湿原では植物を持ち込むだけでなく、植物や昆虫を持ち帰ることも禁止されています。これまでにはトキソウやハルリンドウ、コオニユリなどの盗掘被害も確認されています。