昨年8月、お盆前の強烈な日差しが照りつける日だった。
中国山地の山懐にある鳥取県日南町で、訪問介護を担う「ホームヘルプセンターにちなん」の川上絵里子所長が利用者の高齢男性宅を訪ねると、男性が自宅の石垣の前でうつむき、座り込んでいた。驚いたのは、ほとんど衣服を身につけておらず、全身血だらけだったことだ。
事情を聴くと「田んぼで転んだ」という。泥だらけになり、激しいかゆみに耐えきれずに服を脱いでいた。自宅前にある無農薬の田んぼはヒルの生息地になっていたようで、体は何十カ所もヒルに吸われていた。
うつろな表情だったこともあり、川上さんはすぐに救急車を呼び、男性は一命をとりとめた。「前の訪問先がたまたまキャンセルになって、1時間早く来られたからよかった。少し遅れていたら危なかった」。川上さんはそう振り返る。
厳しい冬場の訪問介護
日南町は、鳥取県全体の約1割を占める広大な土地に3600人ほどが暮らし、高齢化率は56%に上る。
高齢者の暮らしを支えているのは、町内唯一の介護事業者である社会福祉法人「日南福祉会」だ。訪問介護に加えて、特別養護老人ホームやグループホームなどを運営する。
町では今、特に訪問介護が危機的状況にある。背景には、中山間地域に特有の事情が横たわっている。
雪深い町は冬になると、一晩で50センチ以上積もることもある。
数年前の大雪の日、川上さんが利用者宅を訪れた時のことだ。数日間、降り続いた雪で、車道から5メートルほど先の玄関までの通路が雪で覆われて進めなかった。車に積んでいたスコップで雪を必死にかいたが、進めたのは1メートルほど。…
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