この画像を大きなサイズで見る手段を選ばずライバルを蹴落とし、目的のためなら仲間を裏切り、忠実な部下だけで周りを固める上司的な存在に出会ったことはないだろうか?
同様のやり方で人を支配した男が、17世紀にいた。
オランダ東インド会社の商人だった男は、オーストラリア沖で船が難破した後、無人島に残された生存者たちを操り、およそ100人を殺害させた。
イギリスのアングリア・ラスキン大学の研究者が男の行動を分析したところ、現代の職場で出世する「企業サイコパス」の特徴をすべて備えており、世界初の企業サイコパスである可能性が高いことが明らかになった。
この研究成果は『Asian Journal of Business Ethics』誌(2026年9月9日付)に掲載された。
参考文献:
- Study identifies world’s first corporate psychopath | EurekAlert!
職場で出世する企業サイコパス
サイコパスを形づくる「大胆さ」「冷酷さ」「衝動性」という3つの特性のどれかは、程度の差こそあれ誰もが持っている。
ほとんどの人の場合、これらの特性を持っていても弱いものだが、極端に強い人はサイコパスと呼ばれる。
サイコパスは一般の人の約1%とされるが、全員が犯罪者になるわけではない。
表面的な魅力と巧みな話術で周りの信頼を集め、罪悪感を一切感じることなく他人を利用し、会社で出世していく人もいる。
英アングリア・ラスキン大学のクライヴ・ボディ准教授は、職場で出世するサイコパスを「企業サイコパス」と呼んでいる。
企業の役職者の約4%が企業サイコパスにあたると推計されており、職場のいじめやハラスメント、社員の離職、会社の破綻を引き起こすと考えられている。
ボディ准教授はこれまで、巨額詐欺事件で知られるバーナード・マドフなど、20世紀の経営者を分析してきた。
今回の研究で、ボディ准教授は同じ手法を約400年前の人物に当てはめた。
この画像を大きなサイズで見る1629年、難破船の生存者を率いた商人
ボディ准教授は、17世紀のオランダ東インド会社で働いていた商人、イエロニムス・コーネリスの行動を分析した。
オランダ東インド会社は1602年に設立された、世界初の多国籍の株式会社で、アジアの香辛料貿易を独占して大きな富を築いた。
1628年、会社の旗艦バタヴィア号は、大量の銀貨を積んでオランダを出港した。
目的地は会社のアジアの拠点、ジャワの町バタヴィアで、現在のインドネシアの首都ジャカルタにあたる。船名もこの町に由来する。
コーネリスは副商務員と呼ばれる船上の会社幹部で、船の中でナンバー3の地位にいたが、航海の途中から船長と手を組み、船の財宝を奪って海賊になる反乱を計画していた。
1629年6月4日、反乱が実行される前に、バタヴィア号は西オーストラリア州の沖合約60kmに浮かぶフートマン・アブロラス諸島のサンゴ礁に乗り上げ座礁した。
この画像を大きなサイズで見るおよそ200人の生存者が、バタヴィア号に積まれていた小舟で近くの小さな無人島、ビーコン島に運ばれた。
島には真水がなく、食料は船から運び出した分しかなかった。
船団長と船長は、助けを求めるため数十人を連れて小さなボートでバタヴィアの町へ向かった。
ナンバー1と2の船団長と船長が去ったため、島に残された人々の中ではコーネリスが最高位のリーダーになり、生存者を率いることになった。
仲間で周りを固め、およそ100人の虐殺を指揮
生存者のリーダーになったコーネリスは、ビーコン島の運営を決める評議会メンバーを、自分の指示通りに動く仲間に入れ替え、仲間たちに自分への忠誠の誓いを書かせた。
続いてコーネリスは、水を探すという名目で、敵になりそうな兵士たちを、もう1艇あった小舟で、近くの別の島へ送り出し、そのまま置き去りにした。
兵士たちが送られた島は水も食べ物もなさそうに見えたため、コーネリスは兵士たちが飢えと渇きで死ぬと考えていた。
コーネリスの一派は、財宝と水、船から運び出した物資をコーネリスのテントに集めた。
一派は、救助船が来たら船を乗っ取り、海賊船にするつもりだった。
「総司令官」を名乗ったコーネリスは、島の人数を減らさなければ自分たちは生き残れないと仲間に告げた。
コーネリスは殺害を食料と水の節約のためだと説明したが、自分に逆らいそうな人間を消し、残った人々を恐怖支配で従わせる目的もあった。
殺害は男性、女性、子供を問わず続き、犠牲者はおよそ100人にのぼった。
コーネリス自身はほとんど手を下さず、部下に殺害を命じた。
コーネリスは新しく仲間に加わる者にも殺害を指示し、全員を共犯にして裏切れない集団を作り上げた。
一部の女性は殺されずに残されたが、反乱者たちから性的暴力を受けた。
妻と5人の子供を殺されながらも生き延びた牧師は、生き残った人々が殺される恐怖の中で暮らしていたと書き残している。
2017年になり、ビーコン島から犠牲者の遺骨が見つかっており、骨に残る傷は、ナイフや剣、こん棒で殺されたという記録と一致している。
コーネリスは企業サイコパス初の事例
事件を詳しく調べた歴史家のマイク・ダッシュ氏も、著書『難破船バタヴィア号の惨劇』で、コーネリスをサイコパスだと結論づけていた。
ただし、ダッシュ氏の判断は記録を読んだ印象にもとづいたものだ。
ボディ准教授は、企業サイコパスを見分けるための10項目の評価基準を使い、コーネリスの行動を1項目ずつ照らし合わせた。
歴史上の人物をサイコパスと判定するには10項目のうち8項目以上を強く示す必要があるが、コーネリスは10項目すべてにあてはまった。
ボディ准教授によると、コーネリスが島で取った行動は、現代の企業サイコパスが職場で使う手口とよく似ているという。
- 評議会を仲間に入れ替えた → 取締役会を自分が選んだ人物で固める
- 兵士たちを別の島へ追いやった → 反対しそうな人々を分断して力を奪う
- 「総司令官」を名乗った → 自分を大きく見せる
- 殺害で人々を従わせた → 恐怖で職場を支配する
ボディ准教授は「今日の有害な職場で見られる手口が、1629年のこの事例にも表れています。コーネリスは敵対者を排除し、忠実な者に報い、恐怖をつくり、従う者を操り、どんな代償を払ってでも権力を追い求めました」と語っている。
オランダ東インド会社は世界初の多国籍の株式会社だったため、ボディ准教授は、コーネリスが世界最古の企業サイコパスである可能性が高いと結論づけた。
ボディ准教授は、企業サイコパスが資本主義の始まりから存在していたと考えている。
この画像を大きなサイズで見る同じ状況で人々を生かした、もう一人のリーダー
別の島へ置き去りにされた兵士たちは、ウィーブ・ハイエスという兵士に率いられて生き延びていた。
ハイエスは仲間とともに島を徹底的に調べ、真水がたまった2か所の天然の井戸を見つけた。
兵士たちは、海鳥の卵や豊富な魚、カンガルーの仲間で小型のワラビーも見つけて食料にした。
ハイエスに従った兵士の一人は、生存者全員が1000年は食べていけるほどの食料があったと報告している。
ハイエスたちは水が見つかったことを知らせる狼煙を上げたが、コーネリスは応えなかった。
やがて虐殺から逃げてきた人々がハイエスの島にたどり着き、コーネリスの島で起きている殺害をハイエスに伝えた。
ハイエスは難破船の残骸で武器を作り、丘の上にサンゴと石を積んで小さな砦を築いた。
ハイエスたちは攻め込んできた反乱者を何度も撃退し、ついにコーネリスを捕らえた。
1629年9月、船団長が救助船に乗って残された船員たちを助けに来た。
ハイエスたちは、コーネリス一派より先に救助船にたどり着き、船団長に反乱を知らせた。
コーネリスとその一派は殺人と反乱を認め、ビーコン島の近くにあるシールズ島に移され、両手を切り落とされた後、絞首刑になった。
この画像を大きなサイズで見るボディ准教授は「同じ状況に置かれたもう一人のリーダーが、まったく違う結果を出しました。これは事実上、リーダーシップの自然実験でした」と述べている。
自然実験とは、研究者が手を加えなくても、条件の違う2つの集団が偶然生まれて比べられる状況を指す。
ボディ准教授によると、ハイエスのようなリーダーが生存者を率いていれば、生存者全員が救助まで生き延びられた可能性があるという。
また、企業がリーダーを選ぶときに、人柄や倫理観をもっと重視するべきだと訴えている。