見事なキャラクター描写が派手な戦闘を支えているが、そのアクションも時間とともに底がついてくる。
今作で流した返り血の量は、オリンピックサイズプール4つ分を優に満たすだろう。Insomniac Gamesが与えてくれたアダマンチウムの爪によって、すでに数千の敵が命を落とした。『Marvel's Wolverine』が暴力表現において一切の手加減をしていないのは確かであり、スタイリッシュに血の宴を繰り広げる機会はいくらでも用意されている。だが、筆者の胸を躍らせるには単なる血飛沫だけでは足りない。そして、X-Men屈指の有名ヒーローを描いた本作で最も心を揺さぶられたのは、ローガンが自己受容に至る意外なほど繊細な物語だった。
物語は、ジェームズ・“ローガン”・ハウレットがナサニエル・エセックスと出会い、ミュータントコミュニティに引き入れられて特殊部隊「チームX」の要職に就いてから数十年後から始まる。百戦錬磨のヒーローとして描かれる彼だが、物語の開始時点で既に不穏な影が忍び寄っており、ローガンは失踪したミュータントの噂を追い、科学者ボリバー・トラスクを調査する任務に就く。そこから舞台は世界各地へと飛び、危険に満ちた新天地や、封印された記憶を呼び覚ますかつてのゆかりの地を巡っていく。ストーリー自体は王道のスーパーヒーロー物であり、途中で予測可能な展開がいくつか挟まれつつも、終盤には心から楽しめる局面も用意されている。ただしミッション内のアクションを通じてこの物語を効果的に伝える点においては苦戦しており、重要な局面の描写はミッション前後のカットシーンに頼りがちだ。そのため、ストーリーテリングが流れるように展開するのではなく、唐突に立ち止まっては動き出すような、歪なテンポ感を生み出してしまっている。
筆者は本作のウルヴァリン像を非常に気に入っている。リアム・マッキンタイアの演技は、ローガンの代名詞である刃に負けないほどの個性を吹き込んでいる——鈍器のように骨太な肉体に秘められた、鋭く意外性のある奥深さだ。彼は内に秘めた動物的本能が、示そうと努める慈愛を突き破りそうになるジキルとハイドのような二重性をコントロールしながら、自らの暗い過去とミュータントの未来との間で絶妙なバランスを保っている。その感情は声のトーンだけでなく、キャラクターデザインやアニメーションの端々からも伝わってくる。一般エリアを移動する際の猫背な歩調には、彼の生物学的な強靭さとは対照的な「脆さ」が滲み出ており、重い過去が背中に伸しかかっていることを身体的に体現している。これこそがInsomniac Gamesによる精緻なウルヴァリン描写の縮図であり、一瞬にして筆者の最もお気に入りの解釈のひとつとなった。
だが何よりも素晴らしいのは、他のキャスト陣との掛け合いだ。怒号と血飛沫が飛び交う本作において、キャンペーンが最も輝くのは、皮肉にも会話が囁き声にまでトーンダウンする静かな瞬間である。マドリープールのバーでミスティークと過ごす回想のひとときや、雪深き山小屋でのジーン・グレイとの密会、そしてローガンとビクター・“セイバートゥース”・クリードとの間に漂う緊張感は格別だった。特にジーン役のクリジア・バホスは素晴らしく、ローガンの物語の感情的な支柱となり、ありきたりなアメコミ的ストーリー展開に陥るのを防いでいる。
それだけに、ローガンとジーン以外のキャラクターに成長の余地があまり与えられていない点は歯がゆい。彼らはウルヴァリンの足止めをするか、あるいはバーのカウンター越しにちょっとした助言を与える程度の出番しかない。とはいえ、爪を立てるたびにスクリーン上でヘヴィメタルのような暴力描写が吹き荒れる中で、こうした繊細な場面が浮いてしまわないよう仕上げたシナリオチームの手腕は見事と言える。
ウルヴァリンの基本攻撃は洗練されており、□ボタンと△ボタンの連打から繰り出される破壊的なコンボは、肉体であれ鋼鉄であれ滑らかに切り裂いていく。操作レスポンスは極めて良好で、回避やパリィ、必殺技といった現代アクションの定番要素も一通り揃っている。システム自体は複雑ではなく、全体的に難易度はかなり寛容だ。△ボタンを押せば間合い詰めの跳躍で一気に敵へ肉薄でき、攻め続ければレイジゲージが素早く溜まり、クリティカルヒットで敵を容易に粉砕できる上、予備の復活機能という保険まで手に入る。治癒能力(ヒーリング・ファクター)によって戦闘中も時間経過で体力が回復するため、回復パックを求めてエリアを逃げ回る必要がないのも、原作設定に忠実なスマートな仕様だ。
アニメーションの作り込みも文句なしに素晴らしい。『Marvel's Spider-Man』で長年「誰も落下死させない」ことに腐心してきたInsomniac Gamesが、ウルヴァリンがいかにして敵の命を奪うかという「あらゆる虐殺のバリエーション」を楽しんで描いているようにさえ思える。四肢の切断から顎下からの貫通まで、残虐なフィニッシャー技が多彩かつゴア表現満載で用意されている。こんなことを言うと警戒リストに載せられてしまうかもしれないが、筆者は背骨が砕け、胸が引き裂かれるグロテスクな快感の虜になってしまった。ジーンやセイバートゥースとタッグを組んだ連携キルにおける流麗なカメラワークと殺陣も相まって、視覚的なバトルフローは圧巻の一言だ。
爪を振るうアクションが軽快で、重厚で、最高に血生臭いことは紛れもない事実だ。だからこそ、約15時間に及ぶ全ミッションの中盤あたりで「もうお腹いっぱいだ」と感じてしまったことが悔やまれる。基礎部分は堅牢なのだが、このプレイ時間を維持するには、戦闘に説得力のある「成長・拡張感」が必要だった。特に、膨大な数の敵を絶え間ないペースで切り刻み続けることを求められるゲームデザインであれば尚更だ。もちろん、成長要素として能力やスキルのアンロックは用意されているが、選択肢はごく僅かであり、しかも序盤のうちに大半が解放されてしまう。
このプレイ時間を維持するには、戦闘に説得力のある「成長・拡張感」が必要だった。
黄色い竜巻のごとく回転しながら立ちふさがる敵を刻み、高層ビルや崖の上から敵を蹴落とす爽快感は最後まで色あせなかったが、そうした技も戦闘のアプローチを根本から変えてくれるわけではない。ローガンの技量(ツールセット)が進化しないとなれば、戦闘の興奮を維持する重責は「敵のバリエーション」と「遭遇戦(エンカウント)の設計」という2つの要素にかかってくる。そして、まともに機能しているのは一方だけだ。
トラスク社のSF的な部隊であれ、悪の忍者組織「ザ・ハンド」であれ、爪を立てるべき新たな敵タイプは絶え間なく投入される(たとえどの戦いも最終的には同じ反射神経のテストに帰結するとしても)。距離を詰めざるを得ない狙撃手から、サイバネティックス強化された強力なブルートまで様々だ。問題は、倒すのに手数が必要だったり、体制を崩すのにパリィが2回必要だったりする違いはあっても、どの戦闘も本質的には全く同じプレイフィールに終始する点だ。複数タイプの敵が波状攻撃を仕掛けてくる場面では、優先順位を判断して群れを減らしていく立ち回りの面白さが芽生えることもある。しかし、そうした良好なバランスが保たれている場面はごく一部に過ぎない。
多くのミッションは「一本道の通路を進むと広場(アリーナ)に出、そこで待ち伏せに遭う」という予測可能なパターンの繰り返しだ。これらのアリーナ構造自体も目新しさに欠け、広い平地で近接格闘兵と戦わされ、高所の足場に遠距離攻撃の敵が配置されている程度である。敵から敵へ跳びかかり、赤く光る予兆に合わせて射撃を回避する作業がプレイ時間の大半を占めるため、戦闘の舞台となるロケーションはすぐに区別がつかなくなってしまう。基本として本作はプレイヤーに突き進んで爪を血で染めることを要求するが、結果としてワンパターンな立ち回りを強いることになっている。
アクション以外の要素についても、特筆すべき点は少ない。一本道の各レベルには収集要素が隠されており、過去のコミック作品からマイナーなものまで網羅した衣装(スーツ)を解放するための資材が手に入る。30種類以上あるスーツと爪を組み合わせて自分だけのウェポンXを作り出せるカスタマイズは非常に楽しい。また、レベルアップ時のXP(経験値)とは別に、スキル解放に必要なリソースとして「AP」が存在し、パリィの判定時間を延ばしたり受けるダメージを減らしたりと、プレイスタイルを自分好みに調整できる。このAPの獲得方法は2つ、「ウイスキーのボトル収集」と「ナイトメア・トライアルのクリア」だ。
前者は資材回収と同様、単に注意深く画面を探すだけで発見できる(青く光る匂いの軌跡を表示するウルヴァリンの鋭い嗅覚を辿る以外の手間はない)。『Marvel's Spider-Man』のパズルも決して複雑なものではなかったが、あちらは少なくとも良い気分転換になり、頭を適度に使わせてくれた。対して本作では、落ちている収集物に近づいて△ボタンを押すだけだ。これは作業感を脱却する機会を逃しているように感じる。それでも全レベルを回収して回りたくなる魅力はあり、筆者はわずか20時間ほどでプラチナトロフィーを獲得した。
一方の「ナイトメア・トライアル」はもう少し面白い。戦闘や移動のチャレンジが組み合わされており、ハイスコアを獲得してAPを稼ぐには腕前が試される。いくつかある形式の中でも、夢のような世界で敵のウェーブと戦いながら数ラウンドごとにバフやデバフを選択していく「ガントレット」モードはそれなりに楽しめた。PlayStationスタジオがストーリー重視のゲームにローグライク要素を組み込む例のひとつだが、今回はDLCではなく本編に最初から収録されている点も評価できる。そして、これらの試練を突破した際の実質的な報酬は、ローガンの長い生涯から抽出された「記憶」であり、メインストーリーの背景を補完してくれる。ゲームプレイ自体は作業的にこなす場面が多かったものの、チャレンジ要素に物語的な深みを与えるスマートな手法と言える。
ウルヴァリンは怪力無双のパワーハウスとして造られているが、戦闘外では軽快なアジリティも見せる。だからこそ、そうした機動力を活かす場が緩いアスレチック要素程度にとどまっているのは勿体ない。地上の移動速度は速く、防ぐ刃に向かって無駄な発砲を続けるタレットへ一直線に突撃するのは爽快なパワー体験だ。全体に大作らしいリッチな光沢が行き渡っており、時にはシネマティックな野心が炸裂した手に汗握るアクションシークエンスも展開される。月明かりに照らされた東京の屋根からネオン輝く街並みを駆け抜けるチェイスシーンなどは圧巻のスペクタクルだが、こうした演出重視の場面は頻度が少なく、最終的には「花火が上がる中でR2トリガーを押し続けてダッシュするだけ」の操作に集約されてしまう。
ボス戦に関しても同様のことが言える。ボスの数自体が驚くほど少ない上に、デザインの多くは酷似しているが、演出自体は悪くない。例えば序盤に登場するオメガレッド——筆者が幼少期に悪夢を見るほど恐れたミュータント——との一戦は、触手による攻撃を絶妙なタイミングのパリィで受け流し、体勢メーターを削っていく仕上がりで、素晴らしい復讐劇となった。同様に、ネタバレは避けるが、最終ボス戦はプレイヤーの全技術が試される圧巻のスペクタクルだ。一方で、巨大兵器センチネルとの戦闘は「15分間にわたって金属の腕を殴り続けるだけ」であり、最高峰のアクションゲームというよりは、古き良き平庸な3Dプラットフォーマーの趣に近い。巨大な標的がエリアの外側に留まり続けるようなボス戦は、2000年代初頭に置いてくるべきだっただろう。
ローガンは本質的に孤独を好むキャラクターだ。コスチュームを脱いでいる時でさえ社会の境界線上に立ち、自分の心の壁を壊そうとする者との繋がりを渋々探しつつも、ひとりでいることに同等の心地よさを感じている。(髪の量が圧倒的に多いことを除けば)彼はまさに筆者そのものだ。これはピーターとスパイダーマンの両方の姿で市民と触れ合い、街との絆を深めることができた『Marvel's Spider-Man』のオープンワールドとは鮮烈な対照をなしている。ローガンの滞在先にはそうした情緒的な触れ合いが存在しない。もっとも、Insomniac Gamesがここでは全く異なるゲームを作ろうとしたのは明白だ。探索要素を絞り、より一本道な構造を採用している。しかし、その結果選ばれた方向性がインタラクティブ性に欠け、結果として魅力に乏しいものになっている点は見過ごせない。カットシーンで語られるストーリーはプレイヤーの心を完全に捉えるが、そうした見せ場同士を繋ぐ狭いエリアの散策は、ノロノロとした歩調で写真を調べたり音声ログを聞いたりする作業に終始してしまう。これらは尺の短めな本作において、不要な引き延ばしに感じられる退屈なシークエンスだ。インタラクティブ性の面でもう少し工夫ができたのではないかと思わずにはいられない。
『Marvel's Wolverine』には2つの速度しかない。フルスロットルの流血か、内省的な静寂かだ。その中間となる要素がたまにあってもよかったのではないか。
その最たる例が、リーチという名の幼いミュータントを部屋から連れ出そうとする序盤のシークエンスだ。合言葉を要求されたローガンは、エセックスの屋敷内をゆっくり歩き回り、クレヨンで描かれた3枚の落書きを拾い集める。しかし、その落書きに隠された謎解きをプレイヤーに委ねるのではなく、鍵のかかったドアに戻ったローガンが自分で勝手に謎を解いてしまうのだ。そこには挑戦も、解くべきパズルも存在しない。本作には「フルスロットルの殺戮」と「内省的な静寂」という2つの極端なスピードしか存在しないように思える。その間を埋める適切な中間地帯があれば、ゲーム体験はより豊かになったはずだ。世界を跨ぐロケーションの数々が美しく描かれているのは確かであり、茶色く暗い地下洞窟や灰色の施設廊下から抜け出した時のグラフィックは実に見事だ。街に放たれて探索できる場面もあるが、サプライズに満ちた広いエリアを期待してはならない。数ブロック程度に限られた狭い空間だ。だが、そのスケール感はストーリーの規模感を正しく反映している。大局的な脅威は存在するものの、本作の核心は極めて個人的なウルヴァリンの物語であり、X-Menのアンサンブルキャストを絞り込んだInsomniac Gamesの克己的なアプローチは評価できる。無闇に登場人物を増やして冗長化させることなく、選ばれた数名のキャラクターを深く描くことに成功している。その意味で本作は、マーベル・ユニバースの新たな側面へと足を踏み入れた、堅実な第一歩と言えるだろう。
総評
『Marvel’s Wolverine』は、感情揺さぶるストーリーと最先端のゲームプレイを備えた単体作品であり、何者にも止められない「ウェポンX」その人の活躍を描く。
Marvel's Wolverine
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『Marvel's Wolverine』レビュー