東京ゲーム音楽ショーの復活も祈って
9月23日(祝)、ゲーム音楽ライブイベント「音古知新」が、川崎市のエポックなかはら(川崎市総合福祉センター)で開催される。往年の名作から誰もが知る音楽ゲームまで、さまざまな方面で長年実績を残してきたベテランゲーム音楽作曲家たちが集結し、バンド編成とDJスタイルで織りなすゲーム音楽の饗宴。シルバーウィーク最終日を熱く盛り上げてくれそうだ。

出演ミュージシャンの紹介とコメント
出演するゲーム音楽家はほとんどが活動歴20年以上で、名うてのキャリアぞろい。みなさん音楽のクオリティについては申し分ないのだが、「誰でも知ってる有名人」は多くないので、各ステージの概要や見どころがいまいち伝わりにくいのは、少々もったいないところかもしれない。そこで今回、参加ミュージシャンらから特別にコメントをお寄せいただき、それを元に注目ポイントを紐解いてみた。行こうかどうか迷っている人は、ぜひ参考にしてほしい。
サウンドチェック寺田

『サルゲッチュ』や『ファンタビジョン』の音楽を手掛けたことで知られる寺田創一氏によるプロジェクト。氏は日本におけるクラブミュージックの草創期から活動を続ける重鎮であり、またチップチューン民謡プロジェクト「Omodaka」としても世界各地でライブパフォーマンスを行い、高い評価を得てもいる。
『サルゲッチュ』のサントラが装いも新たにアナログレコード化された2024年以降は、「サウンドチェック寺田」名義でゲーム音楽のライブ…もとい「現場のサウンドチェック」を披露するパフォーマンスを開始。ラップトップPCや手のひらシンセサイザーやMIDI コントローラーなどを使用し、ライブ用に再構成したサントラ曲の数々をお届けする。
「今回は『サルゲッチュ』のサウンドトラックを演奏し、演奏に同期した映像も仕込みました。『サルゲッチュ3』 からのトラックも使うかも? 諸般の事情でゲーム画面やキャラクターそのものは登場しませんが、その『残念かつ微妙な部分』にツッコミを入れながら聴いていただきたいと思います」(寺田)
YN2811(Yack.&新田忠弘)

FM音源の黄金時代をよく知るゲーム音楽ファンなら、今回初お目見えとなるこのユニットの結成には驚きを禁じ得ないだろう。尖った感性で時代を突っ走った個性派ふたりが、架空のゲーム作品
『BABEL 2811』のサウンドトラックを世に問うべくタッグを組んだ。
Yack.こと渡部恭久氏はタイトー出身で、同社では『メタルブラック』『カイザーナックル』といった唯一無二のサウンドを生み出したことで名高い。フリーに転じてからは『ボーダーダウン』『旋光の輪舞』などを手掛け、物語性を強く打ち出した独自の作風にファンが多い。
新田忠弘氏は『Xak』シリーズや『幻影都市』といったパソコンゲームで重厚無比のサウンドを展開してきたマイクロキャビンの出身。同社在籍中にはセガ『シェンムー』のプロジェクトにも参加している。現在は再びPSGやFM音源などを意欲的に活用する一方、尺八奏者としても活動する。
「『BABEL 2811』は1995年頃の作品を想定した架空のSFホラー・ガンシューティングです(日本製メガCD強化規格向け)。今回はその楽曲のお披露目となります。ユニットとしても初のステージとなり、往年のMIDI機材を駆使して作られたドラマチックな世界観を、DJスタイルでお届けします。Yack.の新作トラックに加え、新田は往年の名機SC-88Pro実機を中心に据え、今回の為に書き下ろしたMIDIデータをリアルタイムで流し込みます。ふたりの絶妙なトークシーン、さらに新田による尺八やチンドン太鼓演奏も絡めながら展開するステージは必見です」(新田)
Ryu☆

音楽ゲームファンにとってRyu☆こと中原龍太郎は、いまさら説明不要の大御所だろう。2000年、『beatmania IIDX 4th style』でのデビュー以来、快進撃を続けるダンストラック・クリエイターだ。キャッチーなメロディを特徴とする、アップテンポなダンス系楽曲を得意とし、ゲームやクラブシーン以外にJ-POPやアニメシーンへも活動を広げている。
座右の銘は「人を楽しませるために生きている」。エンターテイナー精神に溢れる彼はDJとしても精力的に活躍し、国内外から高評価を得ているのみならず、レーベルEDPのプロデューサーとして大規模イベントを企画運営するなど、多方面に惜しみなく才能を発揮し続ける。
「25年制作している『BEMANI』シリーズの楽曲をDJプレイし、明快に盛り上げます! ゲーム音楽とクラブカルチャーを高次元で融合させた爆発的なサウンドで、前半戦のボルテージを最高潮へと導きます!」(Ryu☆)
山田一法とマジェスティックフェローバンド

古くは『ロックマンゼロ』シリーズ、近年では『蒼き雷霆ガンヴォルト』シリーズや『Bloodstained』シリーズなど、伝統的2Dアクションの系譜を現代的な視点で発展させ続けてきたことで知られるインティ・クリエイツ。そのサウンドチームを30年にわたって率いてきたのが山田一法氏だ。「マジェスティックフェロー」は彼を中心とする流動的なプロジェクトユニットで、まだ非公開ながらインティ作品の音楽でおなじみの面々も関与しているそうだ。バンド形態でサウンドを披露するのは今回が初で、山田氏が得意とする「テクノポップ」と「フュージョン」を軸にしたインスト・グルーヴを、梅垣ルナ氏(キーボード)、栗原務氏(ギター)、徳島由莉氏(バイオリン)らと共に紡ぐ。
「今回は、まだ曲名も決まっていないマジェスティックフェローの新曲プロトタイプを初おろしします。また東京ゲーム音楽ショー開始に合わせて発足した自分のバンドSENSORSから2曲。もちろん、これまで担当したゲーム作品の音楽も演奏する予定です。お楽しみに」(山田)
真夜中ランチ (gliss harmo.)

ベテラン揃いの本イベントにおいて、2018年創設のゲーム・アニメサウンド制作集団グリスハーモは例外的に「若手」といえる存在だ。瑞々しいロックサウンドからチップチューンまで多方面をカバーする柔軟さと機動力は、若い世代ならではのものといえるだろう。主な担当作として『まいてつ Last Run!!』や『雷電NOVA』などがある。
真夜中ランチは昨年に活動スタートしたばかりの同社発クリエイターズバンドで、ライブ出演も今回が初。切なくも心温まるバラードや、軽快な楽曲を持ち味とする彼らは、同社代表のまーしー氏(ドラム)、JimA氏(ボーカル、ギター)、凜名リナ氏(ボーカル)が基本編成で、今回はそこに石多ユウ(ベース)、関根ゆたか(ギター)、中前"Timo"智彦(キーボード)、岩嵜壮志(バイオリン)らが加わる。
「初ライブということで、とにかく当方の『音楽の魅力』が伝わるようなライブをしたいと思っております。また、今回はいつものMV公開の活動とは違って生演奏のため、MVの時とはまた違った表現や演奏内容が、各所に含まれています。狙ってそうなったわけではない部分も多いですが、当方の音楽を初めて聴く人も、普段からよく聴いてくださっている人も、どちらもお楽しみいただけると思います」(まーしー)
ZUNTATA

今回のイベントにおける真打にして最大の見どころは、間違いなくZUNTATAだろう。言わずとしれた株式会社タイトーのサウンド制作チームであり、個性豊かなコンポーザー陣によるサウンドは新旧ゲームファンから大きな支持を得ている。代表作は『ダライアス』シリーズ、『ニンジャウォーリアーズ』、『電車でGO!』『グルーヴコースター』シリーズなど枚挙に暇がない。
ゲームメーカーに所属するサウンドチームとして、日本国内でも長い歴史を持つチームの一つであり、2027年に活動40周年を迎える。そんなZUNTATAにとって今回のライブは、いわば節目を控えての前哨戦。近年はリーダーの石川勝久氏(キーボード)を中心に流動的なバンド編成を採ることの多いZUNTATAは、今回また新しい編成に挑戦するようだ。
「ZUNTATAは40周年を来年に控えたアニバーサリー・イヤーに突入! 『ニンジャウォーリアーズ』『電車でGO!』など、ライブでおなじみの曲をはじめ、新旧タイトーゲーム・ミュージックを演奏します。さらに今回はメンバーのMASAKIがドラムからベースに転向! ギターにZUNTATAのライブには度々登場していただいているイデヨウスケ(EniGmA)も迎え、メンバー3人ともスタンディングポジションでのステージとなります! 新編成によるZUNTATAサウンドにどうぞご期待ください!」(石川)
会場で販売されるグッズ
ライブイベントといえば物販コーナーも見逃せない。会場ではTシャツ、タオル、ステッカーといった公演オフィシャルグッズが販売されるほか、各ステージのグッズとして以下の販売が行われる。
サウンドチェック寺田
・サルゲッチュ サウンドトラック(CDとレコード)
・ファンタビジョン サウンドトラック(CDのみ)
その他ゲームに関連した制作企画のタイトルも数種類用意。「お買い上げの商品はもちろん、持ち込みの物品にも何にでもサインを入れますので、是非遊びにきてください」(寺田)
YN2811(Yack.&新田忠弘)
・架空のゲーム作品『BABEL 2811』のサウンドトラック
・Yack.と新田忠弘の過去作品やイベント限定CD
Ryu☆
・25周年141曲入りBEST CD等、オリジナルグッズ
「サイン・お写真・ご歓談等、自由にOKです!お待ちしております!」(Ryu☆)
山田一法とマジェスティックフェローバンド
・「BRIGDE TO THE FUTURE」のシングルブートレグを発表予定。
真夜中ランチ
・GAME MUSIC LIVE『音古知新』出演記念シール
「真夜中ランチでは、楽曲リリースやイベントの参加などがある度、その記念に限定シールを作って無料プレゼントしています。今回も特別なシールを作って、お配りしておりますので、是非、当方の物販ブースへとお越しいただけますと幸いです」(まーしー)
ZUNTATA
・旧譜アウトレットセール
「限定アイテムはないですが、久々に旧譜のアウトレットセールを行いますので、ぜひ物販ブースにもお立ち寄りください。『ダライアス』『ナイトストライカー』などのここ数年発売のCDもご用意してあります」(石川)
東京ゲーム音楽ショーとは?
ところで今回のイベント名、前置きに「東京ゲーム音楽ショーPRESENTS」とあることにお気づきだろうか。東京ゲーム音楽ショーというのは2014年から毎年行われてきた、ゲーム音楽家とファンの交流を軸としたCD・グッズ等の即売会イベントである。

「東京ゲーム音楽ショーの大きな魅力は、メンバーがファンの皆さんに作品を直接手渡しできること。普段はなかなか伝えきれない思いや制作の裏話を、顔を合わせて語り合えるのは、とても貴重な時間だと感じています。そして、さまざまなゲーム音楽のサウンドクリエイターが一堂に会する、あの独特の空気感も大好きです。まさにゲーム音楽のお祭り、いや『文化祭』という感じですよね(笑)」(石川)
「東京ゲーム音楽ショーには開催初期から関わっていて、そのコンセプトや想いに共感して、参加してきました。ゲームミュージックのイメージもあり方も、時代の変遷とともに変わって久しくなった今、ゲームミュージック文化というものを残していく意味でも、なくなっては困るイベントなのではないか。そんな思いと、今までの感謝の意味も込めて、製作からプロモーションまで、さまざまに支援しています」(山田)
「東京ゲーム音楽ショーには、早いものでもう7年も出展や出演をさせていただいており、弊社にとっては欠かせない、毎年恒例の楽しみなイベントとなっております。東京ゲーム音楽ショーをきっかけに、弊社のことを知ったとお声がけいただくことも多く、また、新たなお仕事に繋がる出会い(発注する側としても、受注する側としても)も多く含まれていたり、弊社の開業当初から、とにかくたくさんお世話になってきたイベントでございます 」(まーしー)
ゲーム音楽家たちが集結するイベントというのは世界的に見ても非常に珍しく、昨今マーケットの分散が著しいゲーム音楽においては、市場の一体感を支えるという意味でも得難く貴重な場になっている。しかし2026年、事態は思いがけない方向に動いた。
東京ゲーム音楽ショーを復活させるために

昨年11月、東京ゲーム音楽ショーは主催者の急病による深刻な資金難から2026年の開催見送りを発表した。現在のところ復活の見通しは立っていない。
東京ゲーム音楽ショーの運営主体はあくまでもファン有志であり、その意味で「同人イベント」の一種ではあるのだが、もし今後の存続が見込めないとなれば、ゲーム音楽の市場そのものが多かれ少なかれ停滞することになるだろう。いまやそれくらいには影響力のあるイベントなのだ。
じっさい、参加・出展ミュージシャンの多くが東京ゲーム音楽ショーの存在に共感や感謝を示しており、その復活を支えたいと願っている。今回の「音古知新」はそもそもその復活をサポートするために企画された、いわば恩返しのためのイベントでもある。
「主催くまぁんさんのゲーム音楽に対する情熱に感銘を受けまして、微力ですが貢献させて頂いております!」(Ryu☆)
「永きに渡ってファンの方々と気軽に交流出来た東京ゲーム音楽ショー。その機会が失われつつあります。復帰に向かって少しでも力になれればと思い、企画に参加しました。東京ゲーム音楽ショーが未来に向かってより輝いていくことを願っております。」(Yack. & 新田)
「ゲーム音楽ショーはVGM に特化した貴重かつ楽しいイベントだと思いますので、それを支えつつ、ライブパフォーマンスで参加できるのはとても嬉しく光栄なことです。今回も張り切って楽しくやりたいと思います。」(寺田)
「恩や感謝の気持ちの一方、出展者として『みんなで作って盛り上げる』ということも大切だと思っておりまして、おそらくそう思っているのは弊社だけではなく、今回の出演者様も皆、同じ気持ちで臨んでいらっしゃる思います。『そんな人たちのライブやイベントが面白くないわけがない!』ということで、今回のステージももちろんですが、今後の東京ゲーム音楽ショーをとても楽しみにしていますし、たくさんの人に楽しみにしていただきたいと思います」(まーしー)
なお会場で販売される公演オフィシャルグッズの収益も、イベントの運営費や復興費用にあてられるそうだ。よろしければご来場の皆様にもぜひ「恩返し」にご協力いただきたい。
東京ゲーム音楽ショーの存続意義
東京ゲーム音楽ショーの復活支援イベントはこれが初めてではない。今年2月にも「TGMS EXTRA:The Session」というイベントが行われているが、企画としては今回の「音古知新」が先行していたそうだ。つまりこちらが正念場ということになる。
昨今のライブ事情を鑑みれば、こうした支援イベントの成否にはなかなか難しいところがあると言わざるをえない。コロナ禍以降のライブ動員回復傾向は、中規模イベントには未だ十分に及んでおらず、客足は完全には復旧していないのだ。
もうひとつ厳しいことを言えば、もしこのまま東京ゲーム音楽ショーがなくなっても、別にゲーム音楽文化がなくなってしまうわけではない。「なくなって困るのは関係者だけでは?」とスルーしてしまうゲーム音楽ファンも少なくはないだろう。
だが長年ゲーム音楽市場の動向を見てきた筆者に言わせれば、それは違う。東京ゲーム音楽ショーの消失は、間違いなくゲーム音楽文化の多様性を衰退させることに繋がるだろう。なぜならそこは、商業流通には相手にされにくい「ゲーム音楽作曲家によるインディミュージック文化」を支える唯一無二の場でもあるからだ。
東京ゲーム音楽ショーには、往年のレジェンドと呼ばれるようなコンポーザーも数多く集う。しかし彼らが今現在創っている音楽は、今どきの売れ筋ゲームの音楽とはかなり異なるものであることが珍しくない。またそこに集うファンたちも、そんな売れ筋は全く気にしないで作品を楽しんでいる。
売れ筋も採算も度外視し、ひたすらクリエイター・オリエンテッドであることが許される。その意味において、そこは紛れもなくインディペンデントな市場なのだ。それはオンラインのムーブメントではなく、実体を持ったマーケットの形でもっともよく機能している。
そこで育まれるネットワークや多様性は、現今の商業的なゲーム音楽市場では評価されにくい。しかしかつてはゲーム音楽に当たり前に付随していたものだった。ゲーム音楽は当初、定まったスタイルなど持たず、音楽家たちの試行錯誤によって形作られる音楽だったことを、思い起こしてほしい。
ひとたびこうした場がなくなれば、先述したようなネットワークや多様性は容易に失われ、いつしか忘却されていくだろう。そして残念ながら東京ゲーム音楽ショーには目下、代替になるようなイベントがない。大げさにいえば、今回のイベントが成功するかどうかは、ゲーム音楽がそうした忘却に至るかどうかの瀬戸際にもなりうるのである。
日本のゲーム音楽が向かう先は、実りの秋か、その先の冬か。折しも秋分の日に開催される「音古知新」を通して、ゲーム音楽文化の未来について思いを馳せてみてほしい。

