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今後10年で「Suica」に起こること--「交通系IC」から「ID」へ(鈴木淳也)

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 東日本旅客鉄道(JR東日本)は9月8日、「Suica Renaissance 第5弾」を発表した。既報の通り、2026年度末(2027年3月)までに、JR東日本管内で分かれている6つの「Suicaエリア」を統合する。これにより、エリアをまたぐ移動でも有人改札で精算する必要がなくなり、Suicaをタッチするだけで乗り降りできるようになる。

 さらに2030年度をめどに、新たな仕組み「どこでも改札」を導入する。これまでSuicaが使えなかった駅も含め、JR東日本管内の全駅で利用できるようにすることを目指す。

 今回発表された「Suica Renaissance 第5弾」で新しい情報は「どこでも改札」が導入されるという部分だけだが、同社のプレスリリースにある導入経緯の説明では「これまで、位置情報等を活用した改札方式(以下『スマホ改札(仮称)』)によって2030年代中頃までにJR東日本全駅でSuicaをご利用いただけるようにする計画でしたが、より早期に実現するため、2030年度から『どこでも改札(仮称)』を『スマホ改札(仮称)』に先行して順次導入します」とあり、もともとは「スマホ改札(仮称)」の2030年代中頃での導入でJR東日本管内全駅でのSuica対応を目指す予定だったことが分かる。

2030年代中頃での導入を予定する「スマホ改札(仮称) 2030年代中頃での導入を予定する「スマホ改札(仮称)
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 気になるのは、この「スマホ改札」によりどの駅でもモバイルSuicaの導入されたスマートフォンの操作で入出場が可能になるという部分だが、特に都市部など多くの駅では自動改札機が導入されており、“(モバイル)Suica”を使って入出場が可能ならば、例えば地元の駅では「スマホ改札」で入場し、都市部の駅では自動改札機への“タッチ”で出場も可能になるはずだ。逆もしかりで、同じ“Suica”であれば入場時と退場時で異なる“改札手段”を組み合わせて柔軟な鉄道利用が可能になることを意味すると思われる。実際、同件についてJR東日本広報に尋ねたところ、次のような回答を得られた。

「スマホ改札については、SuicaのSFやチケットをセンターサーバーにて管理する方式と合わせての導入を検討しています。入場した記録については、センターサーバー上で管理しますので、スマホ改札で入場し、出場時は改札機にタッチして出場するといったソリューションも可能となる予定です。センターサーバーで管理する方式については2024年12月にプレスリリースしました『Suicaの当たり前を超えます ~ Suica Renaissance ~』をご参照ください。なお詳細な仕様等につきましては取扱がきまりましたらご案内させていただきます」(JR東日本広報)

 実は、もともとの質問は「『スマホ改札』は入出場で片方が自動改札機との組み合わせも可能なのか? その場合、『スマホ改札』による入出場処理では乗客のスマートフォン内のSuicaのステータス情報や残高の書き換えを行ったりするのか?」という内容であり、それに対する回答が上記だった。つまり、この回答で分かるのは「2030年代中頃までにSuicaのシステムは大きく刷新され、SuicaカードのICチップ内で残高(SF:Stored Fare)情報が管理されるのではなく、以後はセンターサーバー上で(乗降の)ステータス情報も含めて一元管理されるようになる」という事実だ。“Suica”はカードとモバイルを含めて一種の“ID”のような役割へと変化し、例えるならばクレジットカードや身分証明書のような存在に近くなるといえる。

2024年12月に発表されたSuica Renaissanceでは、すでに2030年代中頃でのセンターサーバー構想が語られている(赤枠内) 2024年12月に発表されたSuica Renaissanceでは、すでに2030年代中頃でのセンターサーバー構想が語られている(赤枠内)
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“Suica”のセンターサーバー化で何が可能になる?

 Suicaの全エリア統合やタブレット端末導入の話題でスルーされがちだったが、実は今回一番のニュースは「スマホ改札」と「センターサーバー化」が密接に結びついた話題だったと再確認できたことではないかと考えている。もともと2024年のSuica RenaissanceでもセンターサーバーによるSFやチケットの集中管理については触れられていたのだが、今回の回答で改めて確認できた次第だ。

2024年12月に発表されたSuica Renaissanceでは、すでに2030年代中頃でのセンターサーバー構想が語られている(赤枠内) 2024年12月に発表されたSuica Renaissanceでは、すでに2030年代中頃でのセンターサーバー構想が語られている(赤枠内)
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 もともとSuicaという仕組みは、ICカードに残高情報を持たせることで自動改札機内で運賃の差し引き処理を完結してしまうことを前提にしていた。これはネットワーク通信技術が今より貧弱だった1990年代に考案されたシステム故の制約によるもので、同時に四半世紀が経過した現在においてもその制約を引きずることでさまざまな制限を受けてきた。1つは「Suicaエリアの分断」という現象で、自動改札機内での処理を高速化するため参照可能な運賃テーブルのサイズに限界があり、都市圏単位で分割するという施策で対応エリアを拡大してきた経緯がある。これが2023年からスタートした運賃計算のセンターサーバー化で徐々に解消され、2027年3月をもってようやく統合されることになった。

 2つめの大きな問題がセキュリティだ。現状のSuicaは基本的にオンライン上でリアルタイムの監視処理が行われておらず、例えばカードを紛失したとしても無効化(いわゆるブラックリスト化)が自動改札機や店舗等の決済端末に反映されるまでに時間がかかり(最長で翌日といわれる)、その間に使われてしまった残高を取り返す手段がない。また、決済処理が行われた瞬間に残高が移動するため、クレジットカードにあるような「取り消し」処理が基本的には行えない。そのため経験ある方もいるかと思うが、処理を取り消す代わりに店舗では現金による返金で対応するといった形で対処される。これは仕様上の制約にもよるが(残高を記録するICカード内のフィールド上限がそもそも低いという話がある)、あまりに高額な残高をICカード内に保存しておくと、紛失や盗難時の不正利用をすぐに止められないというセキュリティ上の問題があり、物販でのSuicaの使い勝手を悪くする一因にもなっていた。これが今後SF(残高)のセンターサーバー化により決済時に逐次管理することが可能になり、前出の取り消し処理なども容易になる。加えて、プリペイド方式でしか利用できなかったSuicaでもクレジット、つまり「あと払い」の機能を付与できるようになり、使い勝手は大きく向上する。

自動改札機の運賃計算が最初にセンターサーバー化された青森県の弘前駅。Suica初導入と合わせての対応だった 自動改札機の運賃計算が最初にセンターサーバー化された青森県の弘前駅。Suica初導入と合わせての対応だった
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 Suicaのセンターサーバー化は「あと払い」機能の追加のみならず、さまざまな面白い試みを可能にする。その1つが先ほども触れた「改札の入出場で違う通過手段の組み合わせが可能になる」という点だ。先ほどの例では「Suicaのタッチ」と「(位置情報を使った)スマホ改札」だったが、これに加えて“ハンズフリー”のウォークスルー改札こと「UWB改札」や新幹線での実証実験が行われた「顔認証改札」など、さまざまな組み合わせが可能だ。Suicaはあくまで身分証明書的な「ID」であり、IDを持つ人物であれば誰でも改札の仕組みや、あるいは店舗での買い物が行える。顔認証改札では、このSuica IDと顔情報が結びつくことで改札通過に必要な「ID」として機能しており、JR東日本としては「Suica」というブランドは単なる1枚のカードではなく、このIDに紐付いたさまざまな“情報”を管理するためのプラットフォームとして考えているのだろう。

高輪ゲートウェイ駅で行われていたUWB改札機のデモンストレーション 高輪ゲートウェイ駅で行われていたUWB改札機のデモンストレーション
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 夢は広がるが、このシステム移行がかなり困難なことは想像に難くない。現在、Suicaをはじめとして交通系ICカードは全国で使えるが、既存の鉄道やバスを含む交通事業者の全システムならびに、店舗に導入された大量の決済端末をどう今後10年間でリプレイスしていくのか、あるいはセンターサーバー化に対応できるように更新していくのか、課題は尽きない。特に交通系ICカードは全国で相互乗り入れ(10カード)しており、おそらくは今後10年間でこの相互利用に関する枠組みを再調整する必要が出てくるはずだ。これが解決できるのであれば、よく言われるようなJR東日本とJR東海、あるいはJR東海とJR西日本の境界駅でのSuicaの越境利用なども解決する道筋が示される可能性がある。

 いずれにせよ、2027年3月31日でSuicaペンギンはJR東日本のSuicaイメージキャラクターを卒業し、新たなイメージキャラクターが次の時代に向けて選出されることになるが、この新キャラクターは「IDプラットフォームと化したSuica」のプロモーションの役割を担わされることになる。単純な「タッチ&ゴー」ではない、一見では分かりにくい新しいSuicaのイメージをどうやって伝えていくか、これもまたなかなかに難しい問題だ。

半年後の引退が約束されているSuicaペンギンは永遠に 半年後の引退が約束されているSuicaペンギンは永遠に
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