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小谷真弥 2026.09.13 - 佐々木朗希
異国でも愛されるドジャース・佐々木朗希【写真:黒澤崇】マイアミ在住のオスカー・トールドーヤさんは佐々木朗希のロッテ時代から大ファン
地区優勝が間近に迫り、マイアミのローンデポ・パークには多くのドジャースファンが詰めかけていた。開門直後の熱気あふれるフィールド。練習を見学していたファンの中に、一際異彩を放つ人物が立っていた。大谷翔平、山本由伸といったスーパースターのドジャースユニホームがひしめく中で、そのファンが身にまとっていたのは黒地に「M」のロゴが映えるロッテのビジターユニホーム。背中には背番号17。佐々木朗希投手のユニホームだった。
日本のプロ野球界では、敵地であっても熱狂的な応援を送ることで「どこにでも行くロッテファン」と言われるが、まさか太平洋とアメリカ大陸を越えたマイアミの地にまでその姿があるとは驚きだ。さらに、手元にはロッテ時代のホーム用ピンストライプユニホームが大切に重ねられていた。一体なぜ、マイアミの地でメジャーのユニホームではなく、NPB時代の日本のユニホームを着込んでいるのか。声をかけると、満面の笑みを浮かべた男性がその“理由”を語り始めた。
男性の名前は、オスカー・トールドーヤさん。マイアミ在住で、ベネズエラとペルーに自身のルーツを持つ野球ファンだ。
その熱量は半端なものではない。オスカーさんはロッテ時代の佐々木のユニホームを、自宅に合計3枚も所有しているという筋金入りのマニアだ。それだけではない。彼が大事そうに手にして、こちらに見せてくれたクリアファイルの中には、ロッテ時代の姿からドジャースのユニホームをまとったものまで、レアな佐々木のトレーディングカードがギッシリと並んでいた。マイアミの地に、日本プロ野球から“地続き”の熱烈な「朗希愛」が存在していたのだ。
「オオタニでもヤマモトでもなく、なぜロウキなのか?」
その問いに、オスカーさんは眼鏡の奥の瞳を輝かせながら答えた。
「もちろんオオタニやヤマモトも素晴らしいけれど、僕にとってロウキは特別な存在なんだ。彼を知ったのは2023年、まさにこの場所(マイアミ)で開催されたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)だった」
2023年のWBCでメキシコ戦に登板した佐々木朗希【写真:アフロ】2023年WBC準決勝のメキシコ戦。マイアミのマウンドに上がった佐々木は3ランを許すなど、決して完璧な結果を残せたわけではなかった。日本のファンにとっても胸を痛める一戦となったが、現地でその投球を眼光鋭く見つめていたオスカーさんの受け止め方は、まったく異なっていた。
「オーマイガッ!」朗希ファンのオスカーさんに起きた奇跡
「あの時、良い場面もあれば悪い場面もあった。でも正直に言って『この若者は、いつか信じられないほどすごい選手になるかもしれない』と直感したんだ。アメリカに来れば、環境が変わってすべてが開花するはずだとね。滑り出しは順調とは言えないかもしれないけれど、必ず立ち直れる。何をすべきか分かっている投手だからね。ただ集中し続けて、彼らしくいられればそれで十分なんだよ」
完璧な成績を残したから好きになったのではない。敵地の強いプレッシャーを背負い、被弾に涙をのみながらもなお、マウンドから放っていた凄まじいポテンシャルと将来性。オスカーさんは一目で「未来の姿」に心を撃ち抜かれたのだという。
しかし、この日は単なる「ファンの熱意」だけでは終わらなかった。最高のドラマは、試合前の練習が終わりを迎えた瞬間に訪れる。
ウオーミングアップ、キャッチボールを終え、グラウンドからベンチへと引き揚げようとしていた佐々木。大勢のファンが声を張り上げる中、佐々木の視線がふと一箇所に留まった。そこにあったのは、異国の地で自分を信じ、ロッテの背番号17を大切に着込み続けているオスカーさんの姿だった。
次の瞬間、佐々木はベンチへ向かう足を止め、まっすぐ歩み寄ってきたのだ。
佐々木朗希からサインを貰うオスカー・トールドーヤさん【写真:小谷真弥】目の前に現れた青いトレーニングウエア姿の本物を前に、息をのむオスカーさん。佐々木はファンの熱量に耳を傾けるように優しく頷くと、オスカーさんが差し出した青いサインペンを手にした。そして、持参していたトレーディングカードのファイルへ想いを込めるように、丁寧にサインを書いたのだ。
佐々木がペンを動かす間、オスカーさんは興奮と感動が入り混じった表情でその手元をじっと見つめていた。周囲のアメリカ人ファンからも「オーマイガッ!」「ラッキーマン!」と歓声と羨望の声が上がる。練習後の限られた時間の中で、自分を昔から応援してくれているファンをしっかりと見つけ出し、“神対応”で応えた瞬間だった。
佐々木が去った後、サインが入った宝物のトレーディングカードとユニホームを手に、オスカーさんは胸いっぱいの様子でグータッチを作ってみせた。
「信じられないよ……。WBCのあの日からずっと応援してきたけれど、彼はピッチの上だけでなく、一人の人間としても最高で、一流のスターだった。今日もらったこのサインとユニホームは、僕の人生にとって一生の宝物だ」
ロッテ時代の佐々木朗希のユニホームにサインを貰ったオスカー・トールドーヤさん【写真:小谷真弥】最高峰のメジャーリーグという過酷な舞台に挑み、ボールやマウンドの違い、厳しいメディアの視線と戦い続ける佐々木。しかし、人々を惹きつけるのは、100マイルを超える直球や鋭いフォークボールの切れ味だけではない。2023年のマイアミで蒔かれた期待の種は、国境を越えた強い絆となり、ファンの心を深く揺さぶり続けている。
異国でも彼がこれほどまでに深く愛される理由。それは、ファンを心から大切にする真摯で優しい素顔と、どんな苦難をも乗り越えていく未来を予感させる、圧倒的なスター性にあるのだと、マイアミの心地よい風の中で深く実感させられた。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)