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国に弾圧されながら、ときには戦争に積極的に協力した…近代日本の宗教が抱えた「生き残りたい」と「認められたい」の切実な板挟み

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辻田真佐憲が『民衆宗教――帝国日本の信仰とナショナリズム』(永岡崇 著)を読む

31分前

source : 週刊文春 2026年11月5日号

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『民衆宗教――帝国日本の信仰とナショナリズム』(永岡崇 著)

 近代国民国家は、ひとびとを結びつけるための「国民の物語」を必要とする。しかもその物語は、宗教的な神話や戦没者の顕彰などを通じて、何らかの超越性を帯びざるをえない。近代日本では、天皇による統治を神話的起源に結びつける国体論が、おもにその役割を担った。

 だが、近年の宗教史研究が明らかにしているように、そのような物語を担おうとしていたのは神社神道だけではなかった。「八紘一宇」というスローガンを生んだ日蓮主義も、仏教と国体論を接合する試みだった。大正期には、科学的な世界観の広まりを背景に、国体論の更新が模索された。近代日本の精神世界は、さまざまな宗教が「国民の物語」を読み替え、せめぎ合う場でもあったのである。

 本書は、天理教、金光(こんこう)教、大本(おおもと)などの近世以降に興った民衆宗教を通じて、その営みを捉え直す。民衆宗教は弾圧や排除にさらされながら、国家との交渉にも踏み出し、ときには戦争協力に積極的に身を投じた。そこには、みずからの信仰を守って生き残りたいという切実さと、国家や社会に貢献する宗教として認められたいという願いがあった。その両立を図るなかで、教祖の教えと国体論の双方を読み替えていった。

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 著者は、これまで教祖の教えからの「後退」と評価されてきたこの動きに、むしろ民衆宗教の創造性と葛藤を見いだす。「近代国家の宗教的イデオロギーや神話的物語」を自分たちの教えに引きつけて解釈し、パロディー化する。それは、いわば公式の「国民の物語」を病気治しや日々の救済と結びつけ、その意味をずらしながら再活性化する営みでもあった。

 仏教に比べて伝統の蓄積が薄く、教義や組織を組み替えやすかった民衆宗教は、そうした近代日本の光と影を映し出した「傷ついた鏡像」にほかならなかった。しかし、その変換の余地は、総力戦体制のもとで圧殺されていく。著者はそこに、帝国日本の「自己批評能力」の喪失をみる。

「国民の物語」の欺瞞性を指弾するより、それを更新する能力が失われていく過程に焦点を当てる本書の議論は、非常に興味深い。

 民衆宗教は帝国日本との衝突・交渉・協力を通じて形づくられた。そのため敗戦と帝国の解体は、民衆宗教のひとつの時代の終わりをも意味した。

 だが、国民国家が現代世界の基本的な単位である以上、何らかの「国民の物語」が存在せざるをえない。ましてやナショナリズムがますます再評価されつつある今日、そうした物語を一概に退けるだけでよいのか。むしろ、物語を読み替えながらある種の動員に抗う論理を組み立てていく思想的な試みもあってしかるべきではないか。その創造性と危うさの双方を描く本書は、今後「国民の物語」との付き合い方を考えるうえでも多くの示唆を与えてくれる。

ながおかたかし/1981年生まれ。駒澤大学総合教育研究部文化学部門准教授。日本宗教史、日本学を専門に研究。著書に『新宗教と総力戦――教祖以後を生きる――』、『宗教文化は誰のものか――大本弾圧事件と戦後日本――』(いずれも名古屋大学出版会)がある。

つじたまさのり/1984年、大阪府生まれ。評論家・近現代史研究者。著書多数。最新刊『「戦後」とは何だったのか』発売中。

民衆宗教―帝国日本の信仰とナショナリズム (中公新書 2927)

永岡 崇

中央公論新社

2026年9月18日 発売

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