
カナダの複数の大学からなる研究チームは10月10日、サイコパス的な性格特性が強い人ほど恐怖を楽しむ傾向があるという先行研究について、「自分は傷つかない」という感覚(無敵感)や退屈しやすさが関係し得るのかを検証した論文を発表。「サイコパス傾向と恐怖の享受、無敵感と退屈しやすさの役割(Psychopathy and Fear Enjoyment: The Role of Invincibility and Boredom Proneness)」と題するこの論文は、心理学における査読(第三者による検証)付きの国際学術誌「Psychological Reports」に掲載予定となっている。オンライン版は「SAGE Journals」より、無料で閲覧可能だ。
本研究では大学生にくわえ、オンラインで参加者を募集。人数の規模や質問の内容が異なる2つの調査を実施している。どちらの調査も参加者の元々のサイコパス的傾向や「無敵感」を質問で測定。その後、参加者はホラーゲーム『Outlast』のプレイ映像を含む2本の動画を視聴し、それらの動画に対する自身の感情を評価していった。なお「退屈しやすさ」については、2つ目の調査において事前質問が追加されている。

2013年にリリースされた一人称視点のサバイバルホラーゲーム。プレイヤーは密告を受けたフリーのジャーナリストとして、巨大企業が運営する山奥の精神病院を訪れる。そこで主人公は、恐ろしい実験や発狂した人々、そして奇妙な現象の数々を目の当たりにする。地獄と化した施設からの脱出を目指しつつ、隠された真実を暴いていく。強烈なホラー描写やショッキングな演出などから高い評価を受けた。
得られた結果をもとに統計学的な分析を行ったところ、サイコパス傾向が強い人ほど、恐怖へのポジティブな感情を抱きやすく、ネガティブな感情を抱きにくいという傾向が、おおむね再確認された。そして「無敵感」は、そうしたサイコパス傾向と有意な関連を持つほか、恐怖に対するネガティブな感情の小ささを説明できる有意な媒介効果も示された。また2つ目の調査では、ポジティブな感情についても無敵感による有意な媒介効果が一部確認されたものの、これはポジティブな反応を弱める方向の効果であり、1つ目の調査ではこうした効果は見られなかった。一方、退屈しやすさはサイコパス傾向と関連していたものの、それが「恐怖を楽しむ反応」を説明するとは今回の調査では認められなかった。
「自分は害されない」という感覚が“恐怖を楽しむ”ことにつながっているかも
まず本論文において言及されている2つのうち、最初の調査について紹介したい。この調査では、サイコパス的な傾向と「恐怖を楽しむ反応」の関連性が、「自分は傷つかない」といった「無敵感」によって媒介されるかどうかを調べている。ここでいう“媒介”とは、サイコパス傾向が強いほど無敵感も強く、その無敵感が恐怖に対する感じ方に関係しているのではないか、という考え方だ。とはいえ、媒介しているからといって因果関係を必ずしも明言できるものではない点は留意されたい。以下の図は「無敵感(Invincibility)」が媒介する反応(Response to Fear Stimuli)と、「サイコパス傾向(Psychopathic traits)」が直接もたらす反応を図解したものだ。

本調査の参加者は、カナダにある2つの大学の学部生425人と、クラウドソーシングサービスを介して集められた400人の計825人だ。大学生の平均年齢は20.75歳、うち女性が75%を占めている。オンラインで募集された参加者の平均年齢は37.86歳で、男性が59%だ。なお、カナダ・アメリカ・イギリスいずれかの居住者であることが前提条件となっている。ちなみに、クラウドソーシングの参加者には5ドル(約789円)が報酬として支払われたほか、学部生は心理学の授業において加点(bonus marks)があったそうだ。
参加者は事前にいくつかの指標について回答し、動画を視聴。その後自身の感情について18の形容詞(ポジティブ・ネガティブで9個ずつ)に5段階評価で答えている。使用された尺度について紹介すると、まずサイコパス的傾向を評価するため、「自己報告式サイコパス尺度 第4版(SRP-4:Self-Report Psychopathy Scale 4th edition)」が用いられた。これは、「私は冷酷だと言われることがある」などといった質問からサイコパス特性を測るものだ。

なおサイコパスについて本論文では、先行研究からその特性が2つの因子に分けられると説明。1つが対人関係に関するもので、共感性の欠如のほか、他人を巧みに操ろうとする「対人操作(interpersonal manipulation)」などの傾向が挙げられるとしている。そして第2の因子は衝動性や反社会的行動、およびリスクを取りたがる行動様式に見られるという。SRPの指標において参加者は、これらの因子に関する質問などに5段階評価で回答していった。ちなみに、SRPの測定は医学的な診断ではない点は留意されたい。あくまでも、その特性がどの程度見られるかを評価するためのものだ。
次に「無敵感」については、「無敵感信念指数(IBI:Invincibility Belief Index)」と呼ばれるものが使用された。これは、「もし凶暴な犬に遭遇した場合、無傷で逃げられる確率はどのくらいか?」といった20の危機的状況に対して、自らが危険を回避・対処できる可能性などを評価してもらうものだ。
使用された2つの動画は、どちらもYouTube上に存在するものを使用。一つは上述した『Outlast』のプレイ動画で、恐怖に関する刺激を目的としたものだ。もう一つはアメリカ・フロリダ州にある海洋テーマパーク「シーワールド・オーランド」内のジェットコースターの主観映像となっている。こちらは興奮を誘発する刺激として採用されたそうだ。
結果として、サイコパス傾向が高い人ほど、恐怖を誘発する動画(恐怖動画)へのポジティブな反応が大きかったことが再確認された。以下の表は、大学生とオンライン参加者(MTurk)について、「サイコパス傾向(SRP)」、「無敵感(IBI)」、および恐怖動画・興奮動画を見たときの感情反応の関連をまとめた表だ。表中斜めに走る“-”や、r=1.00(自分自身との相関)を境として、上部三角の領域が大学生、下部がオンライン参加者の関連数値を表している。

大学生とオンライン参加者(MTurk)の各質問のスコア(SRP、IBI)と、「ネガティブな反応(negative adjectives/ FearNeg/ ExciteNeg)」、および「ポジティブな反応(positive adjectives/ FearPos / ExcitePos)」の相関関係をまとめた表。rは相関係数で、−1から1の値をとる。これが正なら一方が高いほど他方も高く、負なら一方が高いと他方は低くなり、0に近いほど関連が弱いとされる。pは、一般に0.05より小さいと「偶然とは考えにくい」とされる値。CIは相関が収まると見込まれる範囲だ。
上の表ではサイコパス傾向と無敵感の有意な相関関係も両グループで示されている。なお、サイコパス傾向と恐怖動画のネガティブな反応の相関については大学生で弱い関連が見られたが、オンライン参加者では有意でなかった。研究チームは、おおむねの方向性としては先行研究の結果を再現できたとしている。
次に、本題とする「無敵感」による媒介効果に関しては、大学生とオンライン参加者の両グループで、「サイコパス傾向と恐怖に対するネガティブな反応の弱さを、無敵感が媒介している」ことが統計的に示された。つまり、サイコパス傾向が強いほど無敵感が強く、そうした無敵感の強さが、恐怖に対するネガティブな反応の弱さに関係している可能性があるようだ。以下の表は大学生における媒介効果を「恐怖の低さ」(ネガティブ反応の弱さ)と「興奮の高さ」(ポジティブ反応の高さ)の2つに分けて分析したものだ。

大学生における「恐怖を楽しむ反応(Fear enjoyment)」がどのように媒介されているのかをまとめた表。表下部の「恐怖の低さ(Negative ratings)」において「サイコパス→無敵感(Path a)」、「無敵感→反応(Path b)」、および「総合効果としてのサイコパス傾向→反応(Path c)」と「無敵感を経由する間接効果(Indirect effect)」が統計的に有意となっている。一方で、表上部の「興奮の高さ(Positive ratings)」においては、「Path a」および「Path c/c’」が有意だったものの、「Path b」と「間接効果」は有意でなかった。
上の表下部の「恐怖の低さ」においては、サイコパス傾向が恐怖の低さに及ぼす総合効果(Path c)は有意だった一方、無敵感の経由を除いた「直接効果としてのサイコパス傾向→反応(Path c’)」は有意ではなかった。その上で、無敵感を経由する間接効果は統計的に有意であったため、「サイコパス傾向と恐怖の低さの関連は無敵感で説明できる」という形になっていたことになる。しかしながら、興奮の高さに関しては無敵感が媒介しているとは言えなかった。
刺激を求めがちな“退屈しやすさ”は、恐怖を楽しむ心理を説明しない?
この「無敵感が恐怖に対する興奮の高さを説明できなかった」という調査の結果を受け、研究チームは次に、「退屈しやすさ」がそれを説明できるのではないかと考えた。本論文では先行研究を引用し、サイコパス傾向と退屈しやすさの間に関連があることを指摘。さらに何かしらの刺激を求める欲求が、攻撃性や恐怖を楽しむ傾向とも関連がみられていると言及している。
このことから、2つ目の調査では動画視聴前の質問に「退屈しやすさ」の質問項目を加えている。これは「退屈傾向尺度(BPS:Boredom Proneness Scale)」と呼ばれるもので、「列に並んで待たなければならない状況で落ち着かなくなるか」といった、日常での気質を測る指標となっている。なお2つ目の調査の参加者は大学生のみの425人だ。
結果として、サイコパス傾向は恐怖に対するネガティブ反応の低さとポジティブ反応の高さの両面と関連することが初めの調査と同様に確認されたほか、サイコパス傾向と退屈しやすさにも統計的に有意な相関関係が見られた(r=0.33/p <.001)。しかし、「退屈しやすさ」が恐怖に対する反応を説明し得るかについては、「恐怖の低さ」と「興奮の高さ」の両方に対し、有意な結果は得られなかった。一方2つ目の調査では、「無敵感」が「興奮の高さ」と間接効果において有意な関連を示していた(b=−.009、CI [−0.0152, −.0002])。ただし間接効果の値は負となっており、無敵感は、恐怖に対するポジティブな反応をむしろ弱める方向に関連していたようだ。
著者らは「退屈しやすさ」が、サイコパス傾向と「恐怖に対するネガティブな反応の弱さ」および「ポジティブな反応の強さ」の関連をいずれも媒介しなかった点を、予想外かつ驚くべきことだと言及している。というのも、各種の先行研究から「退屈しやすさ」は、刺激希求や犯罪傾向との関連が知られていたためだ。研究チームはこれらの感情反応に関し、退屈しやすさではなく報酬への反応の強さを表す「報酬感受性」が媒介しているのではないかと予想している。
研究チームは2つの調査を通して、先行研究で示された「サイコパス傾向と恐怖を楽しむ反応の関連」が再現されたと説明。くわえて、恐怖に関するポジティブな反応の強さについては、サイコパス傾向の強い人の“恐怖”の解釈がほかの人とは異なっている可能性を示唆しており、それがリスクを取りたがる行動の要因となっているかもしれないと考察している。
今回の研究では、「無敵感」はサイコパス傾向と有意な相関関係があり、また恐怖に対するネガティブな反応の弱さを説明する重要な要因である可能性が示された。一方で、「退屈しやすさ」はサイコパス傾向と有意な相関関係を持つものの、その媒介効果に関しては特段大きな役割を果たすことは確認されていない。研究チームはこうした結果を踏まえ、今回の調査における課題として、いくつかの限界点も挙げている。
一つは参加者の偏りだ。今後の調査では高齢者や犯罪者、一般の地域住民も対象にすればよりよい結果が得られるだろうとしている。また、恐怖や興奮といった各刺激に対し、動画が1本ずつというのも拡充の余地があると指摘。さらに、IBIやBPSの各種質問事項についても、あくまで自己報告式である点に言及。今後は無敵感や退屈の程度を実験的に変化させる研究が必要だとしている。くわえて、サイコパス傾向のある人は、恐怖に対して無敵感を持つというより、単に注意を向けていないという可能性についても考慮すべきかもしれないと語っている。最後に、研究チームは今回の調査は横断的なものであり、因果関係を推論するものではない点を注意して欲しいと述べている。

ホラーゲーム『Outlast』のプレイ動画が使用された今回の調査では、「自分は危機にあっても傷つかない、無事である」という“無敵感”が、サイコパス傾向と恐怖に対するネガティブな感情の小ささの関連を統計的に説明しうることが示された。また従来の研究でも見られていた、サイコパス傾向が強い人は恐怖に対してポジティブな反応が強く、ネガティブな反応が弱いという点も再確認されている。
恐怖をもたらす体験であるホラーゲームについても、あるいは無敵感のような「実際に自分が危険にさらされているわけではない」という安心感が、恐怖を楽しみやすくする一因となっているのかもしれない。また、サイコパス的傾向が強い人ほど恐怖を楽しみやすいということは、そうした傾向のある人はホラーゲームをより楽しみやすい可能性もあるだろう。とはいえ、本論文ではホラーゲームのプレイ動画を使用しただけであり、ホラーゲームを楽しめるからサイコパス傾向が強い、無敵感が強いということを明言できるわけでもない。上述の通り、因果関係は断言できないのだ。また本稿にてたびたび登場した「サイコパス傾向」という言葉は、医学的な診断に基づくものではなく、あくまでSRPという“傾向の程度”を測るものである点も留意されたい。
ちなみに論文末尾には先行研究を引用した発展的な考察として、娯楽的な恐怖体験が感情の調節能力を高め、レジリエンス(精神的な回復力)を向上させる可能性を示唆している。その上で研究チームは、サイコパス的特性を持つ人は、そうでない人と比べ、恐怖を迅速に処理している可能性について言及。具体的には先行研究において、多くの人々は予期的恐怖に直面すると心拍数の増加や発汗に関する皮膚電導度に変化が生じる一方、サイコパス的特性を持つ人は心拍数の増加だけが見られたそうだ。著者らはこうした現象が、対人関係に由来するサイコパスの第1因子と関連しており、その因子が強い場合は、恐怖を誘発する状況においてサイコパス傾向の強い人が何らかの優位性を持っている可能性があると指摘している。
こちらの先行研究における「娯楽的な恐怖体験(recreational fear)」がホラーゲームであるとは必ずしも言えないが、そうした体験がレジリエンスを含む感情調節能力を高め得るというのは興味深い仮説だろう。また一連の研究が示唆した、サイコパス的特性をもつ人が“恐怖に強い”可能性は、いわゆるサイコパスの「怖いもの知らず」なイメージにも通じるかもしれない。ホラーゲームを楽しむ心理がこれらの研究で全て説明できるわけではないが、「怖いもの見たさ」とも言える一見して奇妙な振る舞いも、こうした研究で一歩一歩着実に解き明かされているのだろう。
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