Linux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)が「AGNTCon + MCPCon Japan 2026」を東京・渋谷で開催した。同イベントとしては日本初開催となる。MCPの共同開発者らの講演から、AIエージェントの現在地と今後を読み解く。
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2026年9月10~11日、Linux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)が「AGNTCon + MCPCon Japan 2026」を東京・渋谷で開催した。同イベントとしては日本初開催となる。
モデル間の性能差が縮まる中、基調講演やセッションで繰り返し語られたのは、モデルそのものよりも、その外側にあるハーネスや業務システムとの接続性の重要性だった。MCP(Model Context Protocol)の共同開発者らの講演から、AIエージェントの現在地と今後を読み解く。
モデルの性能差が縮まり、モデル選択時の課題は“別次元”へ
AAIFのエグゼクティブディレクターを務めるマジン・ギルバート(Mazin Gilbert)氏は2日目の基調講演でAIを巡る現状を幾つか示した。
まずはモデルの進化だ。主要なAIモデルの性能指標を分析、公開している「Artificial Analysis」によると、各種モデルがわずかな差でしのぎを削っているのが分かる。日々順位が入れ替わるので、ギルバート氏は講演数日前にグラフを差し替えたという。
上位を占めるのは「Claude」「GPT」といったフロンティアモデルだが、「GLM」「Kimi」のように、フロンティアモデルに急速に追い付いてきているオープンウエートモデルもある。
ギルバート氏によると、オープンウエートモデルでスタックを組めばコストは約6分の1で済む。それでも企業の80%はフロンティアモデルを選んでいるという。
コスト構造も大きく変わりつつある。ギルバート氏は、「石炭が安くなると消費が増え、支払総額はかえって膨らむ」という19世紀の経済学者ジェヴォンズのパラドックスを挙げ、同じことがAIトークンでも起こっているとした。AIトークン単価はこの1年で90%以上も下落したのに対し、消費量は約50倍、あるいはそれ以上に増えているという。
モデルの進化によって深い推論が可能になり、アウトプットの質も上がった。そこに単価の下落が重なり、大量のAIトークンを費やしても現実的なコストに収まっている。用途が広がり、使う量も増えた結果、支払いも増えている。AIトークンにおいて、ジェヴォンズのパラドックスと似たことが起こっている。今後マルチエージェント連携が広がれば、さらに多くのAIトークンが必要になるだろう。
モデルの性能もコストも大きく動く中、ギルバート氏は「モデルやAIトークン単価については語られるが、AIエージェントをどう評価するかはあまり議論されていない」と問題提起する。問うべきは特定のモデルの性能ではなく「タスク全体を、最も低いコストで完遂できるかどうか」だという。
ギルバート氏はコスト比較も示した。性能指標とタスク1件当たりのコストの関係を比べると、最上位のモデルが1タスク当たり3ドル台なのに対し、性能指標では10ポイントほどしか差のないモデルの中には、0.1ドル以下で済むものもある。
業務では、最上位のモデルを必要としないタスクもある。要件に応じてモデルを使い分け、コストを抑える工夫は今後の運用で効いてくるだろう。
ループを掌握せよ――返金ミスは誰の責任か
こうしたモデルの動向以上にギルバート氏が強調するのがハーネスだ。
「モデルが注目されがちだが、ハーネスはそれ以上に重要だ。同じモデルでも、ハーネスが違えば同じタスクの結果が全く別物になる」(ギルバート氏)
広義のハーネスに含まれる要素は、推論から実行、適応、観測までのループ、ツールのルーティング、コンテキスト、メモリ、サンドボックス、権限と認可、エラー時のリトライなど実に幅広い。開発プロセスにとどまらず、AIエージェントを本番で動かす実行基盤全体が対象だ。同氏は「モデルでチャットボットを試すのと、本番システムを運用することの違いはここ(ハーネス)にある」と言う。
今、ソフトウェア開発周辺では、モデル単体の性能評価や「プロンプトをどう工夫するか」から、「ハーネスをどう整備するか」に視点が移ってきている。それだけAIが本番運用に進んでいる表れではないだろうか。
ハーネスの重要性をインシデントを例に問題提起したのが、AAIFで開発者体験担当VPを務めるアンジー・ジョーンズ(Angie Jones)氏だ。「顧客サポートのAIエージェントが、注文した商品が届かなかった顧客に返金処理をしたところ、48ドルのはずが4800ドルも返金してしまった」という想定で会場の聴講者と考察した。
不具合の原因をたどると、注文データには「4800セント」と正しく記録されていた。しかしモデルがツールを呼び出す際に「セント」という単位を落とし、4800という数字だけが渡されたことで、ドルとして処理されていたことが判明した。
原因が判明したところで、ジョーンズ氏は推理劇さながらに「容疑者のうち、犯人は誰か」と会場に問い掛け、チーム、ランタイム(AIエージェントの実行環境)、モデル、ツールとデータの4択で挙手を求めた。
会場の投票ではチームが最多だった。ジョーンズ氏は「やったのはモデルだ。しかし皆さんが選んだ通り、結果を引き受けるのはチームだ」と言い、こう続けた。「モデルの周りにシステムを築き、その誤りを本番に持ち込ませない責任は私たちにある」
誤返金を招いた原因がモデルにあっても、責任を負えるのは人間だけだ。モデルが間違える可能性があることを前提に、誤りが本番に届かない仕組みを用意しておく。それがチームの責任になる。そのためにも、後から実行の記録を検証できて、AIエージェントの行動を制約できて、必要に応じて仕組みを変更できることが重要になる。同氏は「ループを掌握する(own the loop)」ことが欠かせないと強調した。
人間がAI処理のループの中に入ってチェックする「Human in the loop」はよく聞く。最近では、人間が外から監督する「Human on the loop」も聞くようになってきた。ジョーンズ氏が言う「own the loop」はその先にある表現というわけだ。
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