東京・渋谷の飲食シーンで注目を集める兄弟がいる。株式会社PEOPLE TASTEを率いる兄・砂田健太氏と弟・砂田康太氏だ。2022年8月、道玄坂にオープンした大衆酒場『大人気(おとなげ)』は瞬く間に連夜満席のモンスター店となり、2023年5月には桜丘に立ち飲み酒場『嚔(アチュー)』を出店。両店とも月商1,000万円超を記録し、若者から飲食業界のプロまで、幅広い客を惹きつけてきた。
この連載でもたびたび名前が挙がる彼らは、待望の新店『Higgledy Piggledy(ヒグルディ ピグルディ)』もオープンさせたばかり。関西の酒場カルチャーをルーツに持ち、東京で独自の店を展開してきた兄弟の目に、今の飲食シーンはどう映っているのか?
「最近、東京の居酒屋はおもんない」と語る、その言葉の真意、そして仲間と共に挑む新たな表現の場について、本音を聞いた。
4年で東京に築いたつながり。同世代のトップランナーから名前が挙がる理由
この連載でも高い確率で話題に挙がる砂田兄弟。奥渋谷『Arbre』の佐藤幹樹氏や、池袋『岩瀬蒸店』の金大徹氏、外苑前『gnudi』の藤生拓実氏など、業界を牽引する同世代のトップランナーたちがこぞって彼らの名を口にする。だが、当の本人たちに気負った様子は一切ない。
「同世代の飲み仲間はもちろんいますけど、僕ら自身は人脈を広げようと意識して動いたことは一度もないんです」と弟の康太氏はあっけらかんと笑う。
「近所の人の顔や名前を知っているのとまったく同じ感覚ですよ。店に飲みに来てくれたお客さんに『飲食店やってるんですか?』と声をかけて、そこから自然と会話が始まるだけ。本当にそれだけなんです」(康太氏)
では、なぜこれほどまでに多くの飲食人が彼らのもとへ集まるのか。兄の健太氏は、東京へ進出した当時を振り返る。
「僕ら自身が誰よりも現場に立ち続けていたからだと思います。朝5時まで営業して、仕事終わりの飲食関係者が始発まで飲める場所になっていました。『深い時間まで本気で酒場をやっているやつらがいる』というところから、同業の仲間たちが面白がって集まってくれたのかもしれません」(健太氏)
意図的に人脈を広げたのではない。自分たちがやりたい店を、現場に立って続けてきた。その積み重ねが、次の店や仲間へとつながっていった。
最近、東京の居酒屋はおもんない。数字が先行することへの違和感
大阪の飲食シーンで腕を磨いてきた健太氏が上京し、開業してから4年。東京の酒場シーンを肌で感じてきた二人は、現在の飲食トレンドに対して率直な違和感を語る。
「大阪の酒場って、いい意味でビジネスビジネスしていないんですよ。『この店をやりたくてやってるんだ』という人が多い。東京は家賃や開業コストが高く、どうしてもビジネスとして成立させることが先に来る部分がある。同じ『居酒屋』という看板を掲げていても、街の空気が違うんです」(健太氏)
その違和感を、康太氏はさらに率直な言葉で語る。
「僕個人の主観で言わせてもらうなら、最近の東京の居酒屋はおもんない。もちろん飲食店はビジネスですから、売上や利益を追うのは当たり前だし、僕らもそこから逃げるつもりはありません。ただ、マーケティングの話をしたときに、大阪なら『それ、かっこええやん』という表現や美学に着地できるのに、東京だと『インスタのリール動画が何万回再生されたか』みたいな数字ばかりが先に来てしまう」(康太氏)
近年、物件取得費や厨房機器、内装費の高騰により、若手料理人が個人店を独立開業するハードルはかつてないほど高くなった。康太氏は、そうした環境の中で「独立すること」が目的になり、似たような店が増えていることが「おもろくない」と言う。
「正直に言えば『あー、このパターンね』というものばかり。独立することがゴールになってしまって、『本当にそれがやりたかったの?』と疑問に思う新店が多すぎる。表現の場でもあるはずの飲食店が、安全牌を狙ったビジネスに成り下がっている、その現状が僕にはどうしても面白くないんです」(康太氏)
では、自分たちはどうするのか。その答えは、「流行っている店をつくる」のではなく、「一緒に働く人間がやりたいことを店にする」という、彼らの出店の仕方に表れている。


